ここでは、S53Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS53Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S53Cとは
S53Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中で、S53Cは高炭素鋼であり、焼入れして強度や硬さが必要な用途に使用されます。
S50Cでは硬さが不足する場合などに使用されることがあります。
S53Cの関連規格
S53Cは下記のJIS規格で規定されています。
S53Cの鋼管は、S53CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S53C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S53Cの化学成分
JISで規定された、S53Cの化学成分は下記のとおりです。
S53Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.50 ~ 0.56 | ≦ 0.035i | 0.60 ~ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
S53Cに相当するISOの鋼種は有りません。
SAE規格の類似鋼種としては、1053があります。
炭素当量
S53Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.61~0.77
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S53Cの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S53Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 390以上 | 650以上 | 15以上 | ー | ー | 183 ~ 255 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 149 ~ 192 |
焼入れ焼戻し | 590以上 | 780以上 | 14以上 | 35以上 | 59以上 | 229 ~ 285 |
S53Cの熱処理(焼入れ・調質)
S53CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S53Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
800 ~ 850℃空冷 | 約 790℃炉冷 | 800 ~ 850℃水冷 | 550 ~650℃急冷 |
熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりにする必要はりません。
S53Cでは焼割れや熱処理ひずみのリスクが、中炭素鋼と比べると高くなりますので、注意が必要です。
S53Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS53Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S53Cの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 202~205 |
横弾性係数[GPa] | 81~82 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.83~7.84 |
比重 | 7.83~7.84 |
融点[℃] | 1600~1720 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 43~44 |
熱膨張係数[10-6/K] | 9.6~10.9 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 19.7~20.4 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.494~0.506 |
S53Cの使い方と注意事項
最後にS53C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S53Cの用途
S53Cでは、強度の高さが要求される機械部品に使用できます。
しかし例えば中炭素鋼のS35Cと比較すると、強度は高いですが、伸び、絞り、衝撃値などは低下します。
単に強度が高いからと行って使用すると破損の原因にもなりますので注意が必要です。