ここでは、S10Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS10Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S10Cとは
S10Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中でS10Cは、ハダ焼き(浸炭焼入れ)専用鋼であるS09CKを除けば、最も炭素量が低い鋼材であり、柔らかく、冷間加工に適しています。
また、浸炭焼入れを行って使用されることも多い材料です。
浸炭焼入れして使う材料としてはS09CK、S15CK、S20CKがありますが、そこまで厳密な成分管理を必要としない、一般的な用途に適した材料です。
S10Cの関連規格
S10Cは下記のJIS規格で規定されています。
S10Cの鋼管は、S10CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S10C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
S10Cの化学成分
JISで規定された、S10Cの化学成分は下記のとおりです。
S10Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.08 ~ 0.13 | ≦ 0.035i | 0.30 ~ 0.60 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
一般構造用圧延鋼材であるSS400と比べると、鋼を脆くする性質の有るPやSの値が低く規定されています。
浸炭焼入れ専用のS09CKと比べると、P,S,Cu、Ni+Crが多めになりますが、一般的な浸炭焼入れは問題なくできます。
炭素当量
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S10Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.14~0.29
S10Cの機械的性質
浸炭焼入れして使用する場合は、200℃程度での低温焼戻しで使用されますので、表面硬さはHV650~700になります。
炭素が拡散されない中心部は、HV150程度になると思います。
表面だけ硬くて中が柔らかいと、いわゆる豆腐に薄氷のような状態になり、表面が割れやすくなるので注意が必要です。
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での物性値です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S10Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 205以上 | 310以上 | 33以上 | ー | ー | 109 ~ 156 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 109 ~ 149 |
焼入れ焼戻し | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
S10Cの熱処理(焼入れ・調質)
S10CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
熱処理条件
S10Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
900 ~ 950空冷 | 約 900炉冷 | ー | ー |
浸炭焼入れは、930℃程度で3~4時間浸炭後、そのまま800℃まで下げて、焼入れを行います。
その後、200℃程度で低温焼戻しして使用します。
S10Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS10Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 206 |
横弾性係数[GPa] | 79 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.86 |
比重 | 7.86 |
融点[℃] | 1770 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 57~60 |
熱膨張係数[10-6/K] | 11.3~11.6 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 13.3~13.4 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.474~0.477 |
S10Cの使い方と注意事項
最後にS10C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S10Cの用途
S10Cの用途は、柔らかさを生かして冷間加工する部品、良好な溶接性が必要な部品、浸炭焼入れして使用する部品などです。
強度は低いですが、浸炭焼入れすることで表面に圧縮応力が残り、疲労強度が必要な用途にも適します。
S10Cの加工性
S-C材の切削加工性は良好ですが、その中でもCが少ないS10Cは、ねばさがあるので切削性はやや劣ります。
柔らかいので塑性加工は容易にできます。
S10Cの溶接性
S10Cは炭素当量が小さいので、溶接熱影響部の割れなどの問題が無く、溶接性は良好です。
SS400と比較しても成分規定が有り品質が安定しているので、安心して溶接できます。
S10Cの浸炭焼入れ
浸炭焼入れ(はだ焼入れ)専用鋼として、S09CKが用意されていますが、S10Cでも問題なく浸炭焼入れが可能です。
S20Cなどでの浸炭焼入れと比較して、中心部が柔らかくなるので、強い面圧をかけた場合などに凹みができると表面が割れることがあります。
有効浸炭深さ(HV550)から中心部にかけての硬度分布が急変しないように、炭素の拡散時間を長くするなど熱処理条件を工夫すると好結果が得られます。