極性でプラスチックは解る!性質をまとめて理解!

プラスチックやエンプラ材料を選ぶとき、「ナイロンは強い」「ポリエチレンは油に強い」など、材料ごとの特性を単に覚えるのは大変です。

実は、プラスチックの特性の多くは『極性』というたったひとつのキーワードでまとめて理解できます。今回は機械設計者向けに、極性を軸にプラスチックの特性を整理してみましょう。

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『極性』とは?

極性とは「分子内での電荷の偏り」のことです。原子間の電子を引きつける力(電気陰性度)の差が大きいと電荷が偏り、極性が生まれます。

水はプラスの電気を帯びる水素と、マイナスの電気を帯びる酸素でできており、配置が対象ではないので極性強いわけです。

水

樹脂も極性が強いものと弱い(極性が無い)ものがあり、性質に大きな影響があります。

  • 極性が強いと分子同士の結合力が高いので強度や耐熱性に優れる。
  • 極性が強いと水や湿気と強く引き合うため、水に溶けたり湿気を吸収しやすくなる。
  • 極性が弱いと耐油性・耐薬品性に優れる。

などの特性が生まれます。詳しくは後ほどご説明します。

 

なぜ極性の強さで性質が決まるのか?

実際の分子レベルでの動きをイメージすると理解しやすくなります。

極性が強い分子(ナイロンなど)は分子同士が強力な「水素結合」でしっかり結びついています。
このため、強度や耐熱性が高くなりますが、水分や湿気と引き合い、吸湿性が高くなります。
一方、無極性の油とは性質が違いすぎて相性が悪く、油が入り込むことで分子構造が乱れてしまい、「膨潤」したり「軟化」したりします。
中程度の極性を持つ分子(ポリカーボネートやPETなど)は、強すぎず弱すぎない適度な分子間力を持ちます。
そのため、結晶化が抑えられ、分子がランダムに配置される非晶質(アモルファス)構造を作りやすくなります。
この非晶質構造こそが、透明性や良好な耐衝撃性をもたらします。
極性が弱い(無極性の)分子(ポリエチレンやポリプロピレンなど)は、分子間力が弱く(ファンデルワールス力のみ)分子同士が密に並んで結晶化しやすくなります。
油と同じ無極性であるため、油とは干渉せず安定します。結果として、油や薬品に対して非常に高い耐性を示します。

 

人間社会にたとえると・・・

極性の高いプラスチックは、同じ興味を持った人たちのコミュニティのようなもの。
仲間同士のつながりはとても強く(水素結合)、まとまりがあって安定しています。(高強度、高耐熱)極性有り
外部から来た「似た者(水)」に対してもウェルカムで、仲間に引き入れてコミュニティが膨張していきます(膨潤)
ところが、興味は似ているけれども変な人(酸)のような相手も受け入れてしまうので、仲間内でのトラブルが発生し(分解や劣化)、まとまりが崩れてしまうことがあります。
また、全く異なる性質の人(油)のような異質な人に対しても、受け入れてしまうので、グループのまとまりが乱れて結束がゆるみ(軟化)、やがてコミュニティの活力が低下してしまいます。(強度低下)

 

無極性プラスチックは、距離感を大事にする個人主義者の集団のような存在。極性なし
個人個人は、お互いに強く結びつくことはなく(分子間力が弱い)、適度な距離感を保ちながら干渉を避けています。
外から誰が来ても、基本的に無関心なので(水や油に反応せず)、トラブルに巻き込まれにくく平穏な日々をおくっています。(耐酸性や耐油性が有り、吸水性が無い)
こういう人たちに仕事をさせようとすると(強度や耐熱性アップ)、人数を増やして(高分子量化)、軍隊のような統率(結晶性向上)が必要です。

 

極性のあるプラスチックの耐油性が悪い理由

化学では、「似たものは似たものと溶けあう」と言われ、 分子構造が似ているもの同士の方が、似ていな いものより良く溶けます。 水とエタノールは良く溶け合うが, 水と油は溶け合わないわけです。

このことから、極性があるナイロンなどに吸水性があることはイメージできます。

一方、無極性のポリエチレンは、油と同じ無極性の炭化水素鎖(–CH₂–CH₂–)から構成されている似た者同士なのに、なぜ油に溶けないのでしょうか?

ポリエチレン

これは、油もポリエチレンも無極性なので、反応する理由が無いからです。

極性のあるもの同士は、電気的に引きあう力が働きますが、油とポリエチレンには反応するための力が働かないわけです。

しかも、ポリエチレンは分子同士が結晶化して緊密に結びついており、油の分子が入り込む隙間が非常に少ないため、油が染み込みにくく、溶けたり膨潤しないという特徴もあります。

極性が高い樹脂は、無極性の油に触れると、分子間の水素結合が油によって乱され、分子間に油が入り込みやすくなり、『膨潤(ふくらみ)』や『軟化(柔らかくなる)』が起きます。

以上が、極性のあるプラスチックの方が耐油性が悪い理由です。

 

極性と透明性

プラスチックの透明性は、実は極性と深い関係があります。特に『中程度の極性』を持つプラスチックは透明性が高いことが多いのです。

極性が強すぎると、分子同士が強く引き合い、規則正しく結晶化しやすくなります。結晶化が進むと光が結晶界面で散乱し、不透明になります(例:ナイロン)。

極性が弱すぎる(無極性)と、逆に分子が自由に結晶化し、やはり光が散乱されて不透明や半透明になります(例:ポリエチレン)。

『中程度の極性』を持つ材料(ポリカーボネートやアクリル樹脂など)は、結晶化が抑制されて『非晶質(アモルファス)』構造となり、光をきれいに透過します。これが透明性を生む理由です。

① 中程度の極性

② 分子間力が適度な強さになる

③ 結晶化が抑制され、非晶質(アモルファス)構造になる

④ 非晶質構造が光を透過させやすく、透明性が向上する

極性と強度

プラスチックの強度にも極性が関係しています。極性が強いほど、分子間に『水素結合』のような強力な結びつきが生まれ、分子間がしっかり固定されます。その結果、『引張強度』や『靭性』などが高くなります。

ナイロンは極性が強く、水素結合が多いため、非常に高い強度・靭性を持ちます。

ポリエチレンは無極性で分子間力が弱いため、比較的柔らかく強度が低めです。

強度の高いスーパーエンプラエンプラは極性が高いものがほとんどで、汎用プラスチックは無極性となっています。

極性と耐熱性

耐熱性は『分子間の結びつきの強さ』で決まります。極性が強い材料は分子同士が強く引き合っているため、熱を加えても分子がばらばらになりにくく、高い耐熱性を持ちます。

ナイロンやポリアミドなどの極性が強い材料は、耐熱性が非常に高くなります。

ポリエチレンなど極性が弱い材料は、熱によって分子が動きやすくなるため、耐熱性が低めです。

耐熱性を重視する場合、極性の高いプラスチックを候補に選ぶと良いでしょう。

極性と耐水性(吸湿性)

耐水性(吸湿性)も極性が大きく影響します。極性が強い材料は、水分と引き合いやすいため、吸湿性が高く、水によって膨張したり、寸法が変化したりします。

ナイロンは吸湿性が高いため、湿気の多い環境で寸法変化が起きやすくなります。

ポリエチレンなどの無極性材料は、ほとんど水分を吸収せず、安定した寸法を維持します。

湿気の多い環境で使う場合は、無極性の材料や極性が低めの材料を選択すると良いでしょう。

極性と耐薬品性

耐薬品性は極性の差が大きなポイントになります。極性が低い(無極性)材料ほど、多くの薬品や油に対して優れた耐性を持ちます。

ポリエチレンやポリプロピレン(無極性)は、油や薬品とほぼ同じ無極性であり、反応や劣化がほとんど起きません。

極性の強いナイロンやPVAなどは、薬品や油に触れると膨潤や劣化が起きやすくなります。

薬品容器や油を扱う部品には、無極性のプラスチックが最適です。

樹脂の極性の強さによる分類(5段階)

以下にご指定のプラスチックを極性の強さに応じて5段階に分類して整理しました。
極性は「分子構造中の極性官能基の有無・種類・量」と「水素結合や双極子モーメントの強さ」などを総合して評価しています。

★★★★★ 非常に強い極性の樹脂

材料 主な官能基・特徴
PBI(ポリベンズイミダゾール) イミダゾール基、水素結合が非常に強い
PI(ポリイミド) イミド基、耐熱性・吸湿性が高い
PAI(ポリアミドイミダゾール) イミド+アミド基、水素結合が強い
PPA(ポリフタルアミド) アミド+イミド構造、極性が高い
PA(ポリアミド) アミド基(–CONH–)、吸湿性あり

★★★★ 強い極性の樹脂

材料 主な官能基・特徴
PES(ポリエーテルスルホン) スルホン基(–SO₂–)+エーテル、強極性
PSU(ポリサルホン) スルホン基含有、構造はPESに類似
PBT(ポリブチレンテレフタレート) エステル+芳香環構造、結晶性あり
PET(ポリエチレンテレフタレート) エステル結合+芳香環、吸湿性あり
PC(ポリカーボネート) カルボネート結合、透明性と耐衝撃性
POM(ポリアセタール) ホルミル構造、高結晶性で寸法安定性あり
LCP(液晶ポリマー) 芳香環密集+エステル系、液晶構造

★★★ 中程度の極性の樹脂

材料 主な官能基・特徴
PMMA(ポリメチルメタクリレート) エステル結合、透明性が高い
AS(アクリロニトリルスチレン) ニトリル基+スチレン、中極性
ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン) 複合構造(ニトリル+ブタジエン+スチレン)
mPPE(変性ポリフェニレンエーテル) エーテル+芳香環、変性により極性調整可
PPS(ポリフェニレンサルファイド) スルフィド結合(–S–)+芳香環

★★ 弱い極性の樹脂

材料 主な官能基・特徴
PVC(ポリ塩化ビニル) 塩素基(–Cl)による弱い極性
PS(ポリスチレン) 芳香環を含むが全体としては低極性
ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン) 部分的にエチレンを含むフッ素系、弱い極性

★ 非常に弱い・無極性の樹脂

材料 主な官能基・特徴
PE(ポリエチレン) 炭化水素鎖のみ、完全な無極性
PP(ポリプロピレン) メチル基付き炭化水素、無極性
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン) フルオロカーボン構造、非極性で耐薬品性抜群
PFA(ペルフルオロアルコキシアルカン) PTFEに似た構造、柔軟性あり非極性
FEP(フルオロエチレンプロピレン) フッ素系、耐薬品性と非粘着性が高い
PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン) フルオロカーボン+塩素、非常に低い極性

注意点:一部の材料(例:ABS、AS、mPPE)は構造が複雑で、成分比やグレードによって極性が前後することがあります。

 

まとめ:極性を知れば材料選びが楽になる!

このように「極性」を理解すると、プラスチックの性質を直感的に理解し、覚えることができます。

油に触れる用途なら『無極性(PEやPP)』を選ぶ
強靭で耐熱性が必要な場合は『極性の強い材料(ナイロンなど)』を選ぶ
透明性や耐衝撃性が求められるなら『中程度の極性(PCやPET)』を選ぶ

材料選択に迷った時は、「極性」という視点で考えてみてください。きっと設計や材料選びの効率がぐっと上がるはずです。

この記事を書いた人
DD
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機械設計の仕事をしているエンジニアのDDと申します。
技術士(機械)の資格をもっています。
このブログでは、機械技術から日常の中の科学まで、私が興味を持ったことをできるだけ解りやすく紹介しています!

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