ここでは、S40Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS40Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S40Cとは
S40Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中で、S40CはS45Cに比べて流通量は少ないですが、機械部品に多く使用されています。
S45Cよりも削りやすく、小物部品に適しています。
S40Cの関連規格
S40Cは下記のJIS規格で規定されています。
S40Cの鋼管は、S40CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S40C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S40Cの化学成分
JISで規定された、S40Cの化学成分は下記のとおりです。
S40Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.37 ~ 0.43 | ≦ 0.035i | 0.60 ~ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
S40Cは、S25C以下の鋼よりもMnの量が増やされ、焼入れ性を向上させています。
炭素量が増えるにつれ、焼入れ性も良くなります。
炭素当量
S40Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.48~0.64
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S40Cの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S40Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 325以上 | 540以上 | 22以上 | ー | ー | 156 ~ 217 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 131 ~ 163 |
焼入れ焼戻し | 440以上 | 610以上 | 20以上 | 50以上 | 88以上 | 179 ~ 255 |
S40Cの熱処理(焼入れ・調質)
S40CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S40Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
830 ~ 880℃空冷 | 約 820℃炉冷 | 830 ~ 880℃水冷 | 550 ~650℃急冷 |
熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりでなくてはならない訳ではありません。
C量が0.4%以上の鋼は焼割れの危険性があります。
これは、炭素量が多くなるとマルテンサイト変態する温度(Ms点)が低くなるので、ある程度冷えて硬化してから、冷え方の違いによるひずみが発生するからです。
S40Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS40Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S40Cの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 205 |
横弾性係数[GPa] | 82 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.84 |
比重 | 7.84 |
融点[℃] | 1660~1690 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 44 |
熱膨張係数[10-6/K] | 10.7 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 19.2~19.7 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.489~0.494 |
S40Cの使い方と注意事項
最後にS40C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S40Cの用途
S40Cは、ずぶ焼入れや高周波焼入れで硬化させる部品に適しています。
生材のままでも強度があり、機械部品に幅広く適用できます。
S40CとS45Cの使い分け
S40Cの炭素量が0.37 ~ 0.43%、S45Cの炭素量が0.42 ~ 0.48%で、炭素量の範囲が重複しており、一般的には同じように使えます。
特性も近いので、流通量が多くて手に入りやすいS45Cをまず、候補材とすべきです。
それでもS40Cに限定するのは下記のような場合となります。
- 切削加工ツールの寿命を伸ばしたい。
- 加工品が小さい(質量効果が小さい)。
- 有芯焼入れ(中心部を硬くしない)にしたい。
- 高周波焼入れ+低温焼戻しでの硬さがS40Cの方が適す。
- 焼入しない場合、S40Cの機械的特性で問題ない。
焼入れ最高硬さは、S45Cの方が高くなりますので、200℃前後の低温焼戻しで、S45Cだと硬すぎるような場合にS40Cを選ぶのも良いでしょう。
高温焼戻し(調質)の場合は、550~650℃といった焼戻し温度で硬さを調節できるので、硬さを理由にS40Cを選ぶ必要はないと思います。
熱処理品のめっきについて
熱処理した鋼にめっきをする場合、水素脆性のリスクが高くなります。
めっきの前処理の酸洗いやめっき時に発生する水素が鋼中に侵入し、遅れ破壊を引き起こします。
硬いほど割れが発生しやすく、基準は様々ですが概ねHV300以上が危険と言われます。
これを防ぐためにめっき直後にベーキング処理(190℃前後で4時間程度加熱)をして、水素を追い出します。
但し、HV350以上ではベーキングもあまり有効では無いとも言われますので、熱処理した部品をめっきする場合は注意が必要です。
S40C以上は焼割れに注意
炭素量が多くなるとマルテンサイト変態点が低くなるので、焼割れのリスクが高くなります。
S40C以上の炭素量の鋼では、焼割れについての注意が必要です。