クロムモリブデン鋼SCM440を使用して機械部品の設計をするための資料をまとめました。
強度や硬さなどの機械的性質や、比重やヤング率などの物理的性質についても整理しましたので御覧ください。
SCM440とは
SCM440は、SCM435と並び広く使用され、板材の流通も多い材質です。
焼入れ性が良いので、大型の機械部品にも使用できます。
強靭鋼と呼ばれ、強度と靭性が高いので負荷の高い機械部品に適します。
SCM440の関連規格
SCM440は下記のJIS規格で規定されています。
焼入性保証の材質である、SCM440Hが主流となっており、棒、管についてそれぞれ規格があります。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4053 | 機械構造用合金鋼鋼材 | 成分、寸法などを規定 |
JIS G4052 | 記号:SCM440H 焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼) |
焼入れ性、オーステナイト結晶粒度などを規定 |
JIS G3441 | 機械構造用合金鋼鋼管 | 記号:SCM440TK 鋼管の成分、寸法などを規定 |
JIS G3479 | 焼入性を保証した機械構造用鋼管 | 記号:SCM440HTK 鋼管の焼入れ性、オーステナイト結晶粒度などを規定 |
JISG3509-1 | 冷間圧造用合金鋼-第1部 線材 | 記号:SCM440RCH 線材の成分などについて規定 |
JISG3509-2 | 冷間圧造用合金鋼-第2部:線 | 記号:SCM440WCH 線の機械的性質などを規定 |
SCM440の化学成分
JISで規定された、SCM440の化学成分は下記のとおりです。
- SCM440の化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.38 ~ 0.43 | 0.15 ~ 0.35 | 0.60 ~ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.030 |
Ni | Cr | Mo | Cu |
---|---|---|---|
≦ 0.25 | 0.90 ~ 1.20 | 0.15 ~ 0.30 | ≦ 0.30 |
SCM440Hは、メーカーで焼入れ性を確保しやすいように、成分の範囲は広くなっています。
- SCM440Hの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.37 ~ 0.44 | 0.15 ~ 0.35 | 0.55 ~ 0.95 | ≦ 0.030 | ≦ 0.030 |
Ni | Cr | Mo | Cu |
---|---|---|---|
≦ 0.25 | 0.85~ 1.25 | 0.15 ~ 0.35 | ≦ 0.30 |
炭素当量
SCM440の炭素当量は、以下のとおりです。
- SCM440:0.70~0.92
- SCM440H:0.68~0.96
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
SCM440では溶接によって焼入れが入り熱影響部が硬化しますので、溶接には適しません。
SCM440の機械的性質
下記の機械的性質は、旧JISに乗っていた、SCM440の参考値です。熱処理条件や質量効果などにより大きく変化しますので、あくまで参考に留めてください。
SCM440の機械的性質
熱処理 | 降伏点 MPa |
引張強さ MPa |
伸び % |
絞り % |
シャルピー 衝撃値 J/cm2 |
硬度 HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼入れ焼戻し | 835以上 | 980以上 | 12以上 | 45以上 | 59以上 | 285~352 |
SCM440の熱処理(焼入れ・調質)
SCM440のJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
SCM440の熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
ー | ー | 830~880℃油冷 | 530~630℃空冷 |
ー
SCM440の物理的性質
下記の値は必ずしもSCM440そのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
SCM440の物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 210~214 |
横弾性係数[GPa] | 82~83 |
ポアソン比(常温) | 0.28~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.81~7.82 |
比重 | 7.81~7.82 |
SCM440の使い方と注意事項
最後にSCM440材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
焼入れ後硬さを確認する
機械部品の熱処理規定は、重要な部品なら熱処理仕様書を作る場合もあると思いますが、図面に「HRC30~35調質」などと書くだけで済ましているのもあるかと思います。
このような図面指示だと、熱処理屋さんから帰ってきたときに、焼戻し後の硬さを図るだけで合格にしているかもしれません。
これだと、確かに硬さは規格値を満足したかもしれませんが、降伏点や衝撃値はまるで別物になっている可能性があります。
下記は、SCM440の完全焼入れと不完全焼入れの機械的性質を比較したものです。
焼戻し後の硬さは同じになっていることに注意してください。
焼入れ硬さ[HRC] | 55(完全焼入れ) | 35(不完全焼入れ) |
焼戻し硬さ[HRC] | 30 | 30 |
引張強さ[MPa] | 980 | 980 |
降伏点[MPa] | 882 | 833 |
衝撃値[J/cm2] | 127 | 49 |
伸び[%] | 23 | 19 |
絞り[%] | 62 | 53 |
(鉄鋼材料選定のポイント/大和久重雄 より単位を換算して掲載)
特に衝撃値が大幅に低下することが判ります。
重要な部品では、焼入れ後の硬さを確認するようにした方が良いと思います。