ここでは、S28Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS28Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S28Cとは
S28Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中で、S28Cは、焼入れですることを想定したS-C材の中では最も炭素量の含有量が少ない鋼種です。
焼入れ性を良くするために、S25C以下とはMnの含有量が異なっています。
S28Cの関連規格
S28Cは下記のJIS規格で規定されています。
S28Cの鋼管は、S28CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S28C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S28Cの化学成分
JISで規定された、S28Cの化学成分は下記のとおりです。
S28Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.25 ~ 0.31 | ≦ 0.035i | 0.60 ~ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
S28C以上の炭素量の鋼材は、焼入れ性を良くするため、Mnの量が多くなっています。
S28Cに相当するISOの鋼種は有りません。
炭素当量
S28Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.36~0.52
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S28Cの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S28Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 285以上 | 470以上 | 25以上 | ー | ー | 137 ~ 197 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 126 ~ 156 |
焼入れ焼戻し | 335以上 | 540以上 | 23以上 | 57以上 | 108以上 | 152 ~ 212 |
S28Cの熱処理(焼入れ・調質)
S28CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S28Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
850 ~ 900℃空冷 | 約 840℃炉冷 | 850 ~ 900℃水冷 | 550 ~650℃急冷 |
熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりでなくてはならない訳ではありません。
S28Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS28Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S28Cの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 205~206 |
横弾性係数[GPa] | 79~82 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.84~7.86 |
比重 | 7.84~7.86 |
融点[℃] | 1660~1770 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 44~60 |
熱膨張係数[10-6/K] | 10.7~11.6 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 13.3~19.7 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.474~0.494 |
S28Cの使い方と注意事項
最後にS28C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S28Cの用途
S28Cは焼入れして使用できるS-C材として、最もC量の少ない鋼種です。
焼入性は良くないので、小物部品に適しています。
もちろん、焼入れしないで使用することも問題なくできます。
S28Cの切削加工性
S28Cは切り屑が分断しにくいとされるS25C以下と、切削性が良いS30Cの中間の炭素量です。
成分によって、切削性が変わる可能性もありますので注意が必要です。
S28C以上の溶接には注意が必要
S28Cは焼入性を良くするためMnの量が多くなっていることと、成分によっては、炭素当量が0.44%を超えるため、溶接熱影響部の硬さが高くなることがあります。
硬さがHV350以上になると低温割れ(溶接後の冷却時の引張応力による脆性破壊)を起こしやすいと言われています。
これを防ぐには溶接前の予熱が有効です。
予熱を行わなくても溶接は可能ですが、熱影響部の割れ検査や硬さ検査を行うべきです。
溶接品をめっきする場合は、水素脆性による遅れ破壊のリスクが高くなります。