ここでは、S30Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS30Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S30Cとは
S30Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中で、S30Cは硬さが適度なため切削加工性に優れている鋼種です。
冷間引き抜きで強度を上げたみがき棒としても用いられています。
S30Cの関連規格
S30Cは下記のJIS規格で規定されています。
S30Cの鋼管は、S30CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S30C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S30Cの化学成分
JISで規定された、S30Cの化学成分は下記のとおりです。
S30Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.27 ~ 0.33 | ≦ 0.035i | 0.60 ~ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
S30Cでは、焼入れ性を良くするために、Mnの量が多くなっています。
Pは偏析しやすい成分なので、集中している部分に割れが起こりやすくなります。このため、S-C材では0.03%以下と厳しく規定されています。
炭素当量
S30Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.38~0.54
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S30Cの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S30Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 285以上 | 470以上 | 25以上 | ー | ー | 137 ~ 197 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 126 ~ 156 |
焼入れ焼戻し | 335以上 | 540以上 | 23以上 | 57以上 | 108以上 | 152 ~ 212 |
S30Cの熱処理(焼入れ・調質)
S30CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S30Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
850 ~ 900℃空冷 | 約 840℃炉冷 | 850 ~ 900℃水冷 | 550 ~650℃急冷 |
熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりでなくてはならない訳ではありません。
S30Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS30Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S30Cの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 205~206 |
横弾性係数[GPa] | 79~82 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.84~7.86 |
比重 | 7.84~7.86 |
融点[℃] | 1660~1770 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 44~60 |
熱膨張係数[10-6/K] | 10.7~11.6 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 13.3~19.7 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.474~0.494 |
S30Cの使い方と注意事項
最後にS30C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S30Cの用途
S30Cは切削加工性に優れ、焼入れ硬化が可能なので、強度の必要な大量生産品に適しています。
S30Cは被削性が良好
炭素量が少ないと柔らかくて、切り屑が絡む、構成刃先ができやすいなど問題が起こりがちで、逆に炭素量が多すぎると、刃物の寿命が短いなどの問題が起こります。
その点、C0.3%のS30Cは柔らかすぎず硬すぎず、削りやすいとされています。
S30Cの溶接
S30Cの溶接は可能ですが、HAZ(熱影響部)が硬化し、遅れ割れなどのリスクがあります。
予熱を行うなどして正しい管理のもと行う必要があります。
S30Cの熱処理
焼入れは可能ですが、S45Cと比べても焼入性は良くないので、中心部まで硬化させる場合は小物部品に限定されます。