ここでは、S25Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS25Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S25Cとは
S25Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中で、S25Cは熱処理無しで使う低炭素鋼としては、最も炭素量が多く、品質も優れた材質です。
信頼性の要求される機械部品などに仕様されています。
市場性も高いので、必要なサイズが比較的簡単に入手できます。
S25Cの関連規格
S25Cは下記のJIS規格で規定されています。
S25Cの鋼管は、S25CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S25C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S25Cの化学成分
JISで規定された、S25Cの化学成分は下記のとおりです。
S25Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.22 ~ 0.28 | ≦ 0.035i | 0.30 ~ 0.60 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
S25C以下の炭素量の鋼材は、熱処理しないで使用するため、S28C以上のものに比べてMnが少なく規定されています。このため冷間加工性が良くなっています。
溶接での割れの心配が無い炭素当量は0.44未満とされており、S25Cの上限値は0.44%なので、CやMnなどが上限付近の場合は、注意が必要になる場合もあります。
炭素当量
S25Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.28~0.44
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S25Cの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S25Cの黒皮材(熱間圧延のままの材料)は、焼ならしの機械的性質に近くなります。
棒や板材では、引き抜きや圧延など冷間加工によって加工硬化させた材料(S25C-D)も使用されています。
S25Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 265以上 | 440以上 | 27以上 | ー | ー | 123 ~ 183 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 121 ~ 156 |
焼入れ焼戻し | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
S25Cの熱処理(焼入れ・調質)
S25CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S25Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
860 ~ 910℃ | 約 850℃炉冷 | ー | ー |
熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりでなくてはならない訳ではありません。
S22C以下は浸炭焼入れ、S28C以上は、ずぶ焼入れや高周波焼入れが行われますが、S25Cは通常、焼入れは行われません。
S25Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS25Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S25Cの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 205~206 |
横弾性係数[GPa] | 79~82 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.84~7.86 |
比重 | 7.84~7.86 |
融点[℃] | 1660~1770 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 44~60 |
熱膨張係数[10-6/K] | 10.7~11.6 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 13.3~19.7 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.474~0.494 |
S25Cの使い方と注意事項
最後にS25C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S25Cの用途
S25Cは、切削加工して生材のまま使用する機械部品全般に適します。
S25Cの切削加工性
S25C以下の炭素量では、やわらかくて、切り屑が切断され難く、刃物に絡んだり、絡んだ切り屑でワークを傷つけたりすることがあります。
送り量を上げる、刃物のすくい角を増やすなどの方法で切り屑が切断されやすくします。
S25Cの溶接性
SS400も現在のものはほとんどキルド鋼なので問題なく溶接できますが、成分規定がありばらつきの少ないS25Cの方が品質が安定します。
但し、炭素量が0.23%以下、炭素当量が0.44%以下であれば、溶接は不安なく行なえますが、S25Cは、ちょうどこの境界にあたる成分量なので、溶接熱影響部の硬化などについて注意が必要な場合もあります。
成分のバラツキによって硬さの変動がありますので、溶接熱影響部の最高硬さを確認し、おおむねHV350を超えないようにします。
黒皮材とみがき材
S25Cは通常、部品加工後に熱処理無しで使用されます。
丸棒や六角棒の場合、熱間圧延時の酸化スケールが残っている黒皮材と、スケールを落として仕上げた、みがき材(S25C-D)が流通しています。
太いものは黒皮しかない場合もあります。
みがき材(JISG3123のみがき棒鋼)は、通常、ショットブラストや酸などでスケールを落とした後、冷間引き抜き加工で所定のサイズに仕上げられた材料です。(冷間引き抜き加工を行わないみがき棒も有ります)
みがき棒は寸法精度が良いので、旋盤などで加工しやすい材料です。
強度もだいぶ違い、黒皮材は、焼きならしに近い機械的性質となります。
一方の、冷間引抜のみがき材は、加工硬化しているので、降伏点も引張強度も高くなります。
試作はみがき材でやったけど、量産になって、いつのまにか黒皮材が使われて、強度不足でクレームになった。なんてことも有るので注意が必要です。
このような場合は図面にS25C-Dと記載しましょう。
量産品でシビアな管理が必要な場合は、鋼材メーカーや、磨棒鋼メーカーと、強度や検査内容、納入形態などを取り決めし、材料協定を結びます。