ここでは、S09CKを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS09CKを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S09CKとは
S09CKは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中で、S09Kは、はだ焼入れ(浸炭焼入れ専用の鋼です。
「K」は高級の意味で、高品質な浸炭焼入れを行いたい場合に使用されます。
S09CKの関連規格
S09CKは下記のJIS規格で規定されています。
S09CKの鋼管は、S09CKTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S09CK素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S09CKの化学成分
JISで規定された、S09CKの化学成分は下記のとおりです。
S09CKの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.07 ~ 0.12 | ≦ 0.025i | 0.30 ~ 0.60 | ≦ 0.025 | ≦ 0.025 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.25以下 | 0.30以下 |
S09CKでは、浸炭焼入れ時の品質の安定化のため、P、S、Cu、Ni+Cの管理値が厳しく設定されています。
炭素当量
S09CKの炭素当量は、以下のとおりです。
0.13~0.28
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S09CKの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
焼入れの機械的性質は、浸炭焼入れの表面ではなく、あんこ(炭素の拡散が無い中心部)の部分の値です。
浸炭焼入れの表面は、通常、炭素量が0.8~0.9%程度で、焼戻しも低温なので、表面の硬度はHV700(HRC60)程度になります。
S09CKの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 109 ~ 149 |
焼入れ焼戻し | 245以上 | 390以上 | 23以上 | 55以上 | 137以上 | 121 ~ 179 |
S09CKの熱処理(焼入れ・調質)
S09CKのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S09CKの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
900 ~ 950℃空冷 | 約 900℃炉冷 | 一次880 ~ 920℃油(水)冷二次750 ~ 800 ℃水冷 | 150 ~200℃空冷 |
浸炭後の焼入れは、一次焼入れ、二次焼入れを行うのが理想的な方法です。
一次焼入れで中心部の結晶粒を微細化し、二次焼入れで表面の浸炭層を硬化させます。
実際には、低コスト化や省エネ化の観点から、焼入れを1回だけとする、じか焼入れも行われています。
S09CKの物理的性質
下記の値は必ずしもS09CKそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S09CKの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 206 |
横弾性係数[GPa] | 79 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.86 |
比重 | 7.86 |
融点[℃] | 1770 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 57~60 |
熱膨張係数[10-6/K] | 11.3~11.6 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 13.3~13.4 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.474~0.477 |
S09CKの使い方と注意事項
最後にS09CK材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S09CKの用途
S09CKは、はだ焼き入れ(浸炭焼入れ)を行って使用します。
はだ焼き用には、他に、S15CK、S20CKも有り、同じように使えますが、S09CKは、内部の浸炭されない層がいちばん軟質になります。
浸炭焼入れでの寸法変化を嫌い、浸炭後に多少の矯正をしたい場合にS09CKを選定する場合もあります。
S09CKとS10Cの比較
S09CKと炭素量がほとんど同じ炭素鋼には、S10Cがあります。
S10Cは軟質なため、塑性加工に適する材料ですが、浸炭焼入れして使用することも有ります。
一般の部品ではS10Cで浸炭焼入れしても問題は有りません。