ここでは、S20CKを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS20CKを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S20CKとは
S20CKは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中で、はだ焼き用鋼には、S09CK、S15CKもありますが、この中でも、S20CKは最も炭素量が多い鋼材です。
表面だけでなく、中心部もある程度強度を高めたい場合に使用されます。
「K」は高級の意味で、高品質な浸炭焼入れを行いたい場合に使用されます。
S20CKの関連規格
S20CKは下記のJIS規格で規定されています。
S20CKの鋼管は、S20CKTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S20CK素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S20CKの化学成分
JISで規定された、S20CKの化学成分は下記のとおりです。
S20CKの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.18 ~ 0.23 | ≦ 0.025i | 0.30 ~ 0.60 | ≦ 0.025 | ≦ 0.025 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.25以下 | 0.30以下 |
S20CKでは、浸炭焼入れ時の品質の安定化のため、P、S、Cu、Ni+Cの管理値が厳しく設定されています。
炭素当量
S20CKの炭素当量は、以下のとおりです。
0.24~0.39
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S20CKの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
この機械的性質は、浸炭焼入れでの硬化層ではなく、素地の値です。
S20CKでは、中心部の強度が高いため、表面だけではなく全体的に強度が要求される部品に適しています。
S20CKの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 114 ~ 153 |
焼入れ焼戻し | 390以上 | 540以上 | 18以上 | 45以上 | 98以上 | 159 ~ 241 |
S20CKの熱処理(焼入れ・調質)
S20CKのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S20CKの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
870 ~ 920℃空冷 | 約 860℃炉冷 | 一次870 ~ 920℃油(水)冷二次750 ~ 800℃ 水冷 | 150 ~200℃空冷 |
S20CKは浸炭焼入れ専用ですが、多く用いられるのはガス浸炭です。
ガス浸炭はプロパンなどを加熱変性し、メタンなどを適量添加したガスで行われます。
浸炭焼入れ後は、低温焼戻しが必要です。低温焼戻しによって表面の割れ防止と、耐摩耗性を向上させることができます。
S20CKの物理的性質
下記の値は必ずしもS20CKそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S20CKの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 205~206 |
横弾性係数[GPa] | 79~82 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.84~7.86 |
比重 | 7.84~7.86 |
融点[℃] | 1660~1770 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 44~60 |
熱膨張係数[10-6/K] | 10.7~11.6 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 13.3~19.7 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.474~0.494 |
S20CKの使い方と注意事項
最後にS20CK材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S20CKの用途
S20CKははだ焼入れ用の鋼としては、炭素量が多いので、内部の強度もある程度確保したい場合に適します。
はだ焼入れ鋼の使い分け
浸炭焼入れは、浸炭硬化層の厚さが、0.5mmなどと薄く、内部が軟質な場合、いわゆる豆腐に薄氷のような状態となります。
このような硬さ分布の部品に、局部的に面圧が高い場合などに表面の割れが起こりやすくなります。
このような懸念がある部品には、S20CKが適しています。
S20CKでは、中心部の強度が、S09CKやS15CKよりも高くなるので、、部品の強度が必要な場合には、S20CKを選定します。
更に全体強度を上げたい場合は、合金鋼のはだ焼き用である、SCM415H、SCM420Hなどの選定も検討すべきです。