ここでは、S15Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS15Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S15Cとは
S15Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されます。
炭素量の近い鋼材には、SS400が有りますが、SS400と比較すると、S15Cの方が成分の偏析が少なく、より高品質な材料です。
塑性加工もしやすい材料なので、加締め加工性などから選択されることもあるかと思います。
熱処理する場合は、浸炭焼入れ(はだ焼入れ)をして使用することができます。
S15Cの関連規格
S15Cは下記のJIS規格で規定されています。
S15Cの鋼管は、S15CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S15C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S15Cの化学成分
JISで規定された、S15Cの化学成分は下記のとおりです。
S15Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.13 ~ 0.18 | ≦ 0.035i | 0.30 ~ 0.60 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
一般構造用圧延鋼材であるSS400と比べると、鋼を脆くする性質の有るPやSの値が低く規定されています。
浸炭焼入れ専用のS15CKと比べると、P、S、Cu、Ni+Crが多めになりますが、一般的な浸炭焼入れは問題なくできます。
炭素当量
S15Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.19~0.34
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S15Cの機械的性質
軟質な材料で伸びが大きいめ、塑性加工性に優れています。
みがき鋼棒では冷感引抜き加工によって焼準状態の引張強さよりも強くなります。
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S15Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 235以上 | 370以上 | 30以上 | ー | ー | 111 ~ 167 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 111 ~ 149 |
焼入れ焼戻し | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
S15Cの熱処理(焼入れ・調質)
S15CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S15Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
880 ~ 930℃空冷 | 約 880℃炉冷 | ー | ー |
S15Cでは、焼入れの推奨条件は提示されていませんが、ハダ焼入れ(浸炭焼入れ)が行われることも多い材料です。
浸炭焼入れ後は、200℃程度で低温焼戻しして使用します。
S15Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS15Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 205~206 |
横弾性係数[GPa] | 79~82 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.84~7.86 |
比重 | 7.84~7.86 |
融点[℃] | 1660~1770 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 44~60 |
熱膨張係数[10-6/K] | 10.7~11.6 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 13.3~19.7 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.474~0.494 |
S15Cの使い方と注意事項
最後にS15C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S15Cの用途
S15Cは、加締などの大きな変形をさせても割れることがなく、塑性加工にも適した材料です。溶接性にも適しており、浸炭焼入れして使用することもできます。
機械部品は曲げやねじれが加わることが多いので表面の機械的性質が重要です。浸炭焼入れは表面を強く、内部を柔軟なままにできるので、用途によっては優れた部品にすることができます。
S15Cの切削加工性
S-C材の切削加工性は良好ですが、S15Cは、ねばさがあるので、削りにくさもあります。
切り屑が連続してワークやツールに絡みやすくなります。
大量生産品などで、切削性が問題となる場合は、同程度の炭素量の快削鋼(JISG4804 硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材)も検討すべきです。
S15Cの溶接性
SS400でも通常は問題なく溶接できますが、溶接性を保証する検査が行われておらず、成分が規定されていないので粗悪品の恐れもあるため、重要な機械部品には向きません。S15Cであれば、キルド鋼であり成分のバラつきが少ないので溶接の品質を確保できます。
S15Cの浸炭焼入れ
浸炭焼入れ(はだ焼入れ)専用鋼として、S15CKが用意されていますが、S15Cでも問題なく浸炭焼入れが可能です。