ここでは、S12Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS12Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S12Cとは
S12Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中でS12Cは浸炭焼入れして使用することの多い、低炭素鋼です。
S12C限定での指定よりも、S10C~S15Cと言った指定で使われることが多ように思います。
S12Cの関連規格
S12Cは下記のJIS規格で規定されています。
S12Cの鋼管は、S12CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S12C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S12Cの化学成分
JISで規定された、S12Cの化学成分は下記のとおりです。
S12Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.10 ~ 0.15 | ≦ 0.035i | 0.30 ~ 0.60 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
S12Cに相当するISOの鋼種は有りません。
炭素量の範囲は、S10Cや、S15Cと被っています。
炭素当量
S12Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.16~0.31
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S12Cの機械的性質
炭素量が少なく軟質なので、冷間加工性に富んでいます。
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S12Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 235以上 | 370以上 | 30以上 | ー | ー | 111 ~ 167 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 111 ~ 149 |
焼入れ焼戻し | ー | ー | ー | ー | ー | ー |
S12Cの熱処理(焼入れ・調質)
S12CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S12Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
880 ~ 930℃空冷 | 約 880℃炉冷 | ー | ー |
熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりである必要はりません。
焼入れ条件は推奨されてませんが、浸炭焼入れを行って使用されることも多い鋼種です。
A3変態(オーステナイトからフェライトに変化し始める温度)温度は、炭素量のが少ない場合は、高温になるので、焼きならし条件も高めになっています。
S12Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS12Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S12Cの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 206 |
横弾性係数[GPa] | 79 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.86 |
比重 | 7.86 |
融点[℃] | 1770 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 57~60 |
熱膨張係数[10-6/K] | 11.3~11.6 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 13.3~13.4 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.474~0.477 |
S12Cの使い方と注意事項
最後にS12C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S12Cの用途
S12Cは、軟質でねばりが有るので、冷間で組成加工する場合や、溶接する部品などに使用されます。
S12Cの切削加工性
S12Cは、C%が少ないので、粘りが有り、構成刃先ができて表面が荒れやすくなる傾向があります。刃物のすくい角を大きくして、切削速度を上げることで、刃先への溶着を防ぐと、なめらかな表面が得られます。
S12Cの溶接性
S12Cの炭素量が少ないので問題なく溶接できます。
S12Cの浸炭焼入れ
S12Cは強度は低いですが、はだ焼入れ(浸炭焼入れ)すれば、強度アップが可能です。
はだ焼入れは中心部は柔らかいままですが、物は表面から壊れるので、表面の強度が高ければ、破損を防げるケースが多いです。