ここでは、S35Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS35Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S35Cとは
S35Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中で、S35Cは流通量が多く、機械部品に多用されています。
焼入れができる炭素鋼の中では、炭素量が低くて焼入性は良くないので、小物部品に適しています。
鍛造加工などで塑性変形させることも可能で、加工後に焼入れすることで必要な強度や硬さを得ることができます。
S35Cの関連規格
S35Cは下記のJIS規格で規定されています。
S35Cの鋼管は、S35CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S43C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S35Cの化学成分
JISで規定された、S35Cの化学成分は下記のとおりです。
S35Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.32 ~ 0.38 | ≦ 0.035i | 0.60 ~ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
S35Cは、焼入れ性を良くするためにMnの含有量が、S25C以下の低炭素鋼に比べて多くなっています。
Sは熱間加工性を悪くする性質があり、Pは冷間加工性を悪くする性質があります。
このため、S-C材では含有量を低く抑えられています。
炭素当量
S35Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.43~0.59
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S35Cの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S35Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 305以上 | 510以上 | 23以上 | ー | ー | 149 ~ 207 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 126 ~ 163 |
焼入れ焼戻し | 390以上 | 570以上 | 22以上 | 55以上 | 98以上 | 167 ~ 235 |
S35Cの熱処理(焼入れ・調質)
S35CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S35Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
840 ~ 890℃空冷 | 約 830℃炉冷 | 840 ~ 890℃水冷 | 550 ~650℃急冷 |
熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりでなくてはならない訳ではありません。
S35Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS35Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S35Cの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 205~206 |
横弾性係数[GPa] | 79~82 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.84~7.86 |
比重 | 7.84~7.86 |
融点[℃] | 1660~1770 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 44~60 |
熱膨張係数[10-6/K] | 10.7~11.6 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 13.3~19.7 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.474~0.494 |
S35Cの使い方と注意事項
最後にS35C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S35Cの用途
S35Cは加工性に優れ、熱処理も可能なので、機械部品に幅広く適用可能です。
S35CとS45Cの使い分け
成分が近くて、SC材では汎用性が高い鋼種にS45Cがあります。
このS45Cを使わずに、S35Cを選ぶケースは例えば以下のような時です。
- 切削加工性(ツール寿命)を良くしたい
- 加工品が小さく、焼入性が問題とならない。
- 焼入れ深さが必要ない、または意図的に浅くしたい。
- 生材で使う場合、S35Cで必要な強度が得られる
ずぶ焼入れで使う場合、必要硬さで使い分ける必要はあまりありません。
硬さは焼戻し温度で調節できるからです。
S45Cの方が焼入性が良いので、マルテンサイト化率が高くなり、同じ硬さでも靭性が高くなるケースもあります。
S35Cは溶接できる?
S35CでもS45Cでも溶接は可能ですが、炭素当量が高いため焼きが入りやすく、溶接の熱影響部(HAZ:Heat-Affected-Zone)が硬くなって割れが発生しやすくなります。
溶接したときに割れなかったとしても、遅れ破壊(水素脆性)などにより後でトラブルになる可能性が高くなります。
これを防ぐには、S35Cであれば、200℃程度の予熱を行って溶接します。
予熱によって、冷却速度を遅くして焼きが入りにくくし、水素の拡散を促進して割れ発生を防止します。
S35Cの焼入れはバラツキに注意
S35Cは焼入性が悪いので、よほど小さな部品を除き、中心部まで硬くすることは難しいです。
逆にこれを利用して、表面だけ硬く、中心部は柔らかい有芯焼入れにすることもでききます。
有芯焼入れでは表面だけマルテンサイト変態による膨張で、圧縮残留応力状態になり、疲労強度が向上します。
また、S35Cは水焼入れしてもマルテンサイト変態が始まる温度(Ms点)が高いために焼割れが起こりにくい特徴があります。
これらの特徴を上手に生かせば、良い特性の部品を得ることが可能ですが、焼きムラが非常に起こりやすいので量産でのばらつきについては注意が必要です。
熱処理屋さんと相談しながら試作して、冷却の方法や検査方法など、詳細に規定していかないと、後々トラブルの原因になる可能性が高くなります。