ここでは、S50Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS50Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S50Cとは
S45Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材）で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中で、S50C以上の鋼は、高炭素鋼に分類され、S-C材の中でも硬さや引張強度が高くなります。
S50Cはプレート（板材）として流通量の多い材料です。
質量効果などから焼入れ性が不足して所定の硬さが得られない場合にも使用されます。
S50Cの関連規格
S50Cは下記のJIS規格で規定されています。
S50Cの鋼管は、S50CTKとして規定されています。
| 規格番号 | 規格名称 | 概要 |
|---|---|---|
| JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S50C素材の成分規定など |
| JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
| ー | ー | ー |
S50Cの化学成分
JISで規定された、S50Cの化学成分は下記のとおりです。
S50Cの化学成分[％]
| C | Si | Mn | P | S |
|---|---|---|---|---|
| 0.47 ～ 0.53 | ≦ 0.035i | 0.60 ～ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
| Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
|---|---|---|---|
| 0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
焼入れ性（マルテンサイト化するために必要な冷却速度）は、Mnの影響が高いので、S50Cでは、含有量が多くなっています。
また、炭素量が多い方が焼入れ性が良いので、S50Cであればかなり良くなります。
炭素当量
S50Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.58～0.74
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44％以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S50Cの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
S50Cは、S45Cよりも、伸び、絞り、衝撃値が低下するため、もろさが有ります。
S50Cの機械的性質
| 熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 焼きならし | 365以上 | 610以上 | 18以上 | ー | ー | 179 ～ 235 |
| 焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 143 ～ 187 |
| 焼入れ焼戻し | 540以上 | 740以上 | 15以上 | 40以上 | 69以上 | 212 ～ 277 |
S50Cの熱処理（焼入れ・調質）
S50CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S50Cの熱処理条件
| 焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
|---|---|---|---|
| 810 ～ 860℃空冷 | 約 800℃炉冷 | 810 ～ 860℃水冷 | 550 ～650℃急冷 |
熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりにする必要はりません。
複雑な形状の大きな物をS50Cなどの高炭素鋼で作ると、熱処理時に焼割れのリスクが高くなります。
変形が問題となる場合は、塩浴を用いたマルテンパなどの処理によって改善が期待できます。
S50Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS50Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S50Cの物理的性質
| 物理的性質 | 物性値 |
|---|---|
| 縦弾性係数（ヤング率）[GPa] | 205 |
| 横弾性係数[GPa] | 82 |
| ポアソン比（常温） | 0.27～0.29 |
| 密度[g/cm3] | 7.84 |
| 比重 | 7.84 |
| 融点[℃] | 1660～1690 |
| 熱伝導率[W/(m・K)] | 44 |
| 熱膨張係数[10-6/K] | 10.7 |
| 固有抵抗[10-8Ω・m] | 19.2～19.7 |
| 比熱[J/(kg・K)] | 0.489～0.494 |
S50Cの使い方と注意事項
最後にS50C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S50Cの用途
S50Cは、キーやピンといった、局部的に面圧が高くなる部品に適しています。
耐摩耗性が要求される場合は、セメンタイトが析出する炭素工具鋼（SK材）が適しますが、そうでない場合は、S50C～S55Cが適します。
金型、治工具類への適用
S50C材は、精度良く仕上げられた板材、ブロック材の流通が多く、プレスや樹脂金型、治工具と行った用途にもS55Cと並んで多用されます。
工具鋼（SK材、SKD材など）よりも安価なので、金型の構造部分などは、予め硬さを調節されたS50C、またはS50C相当のプリハードン（調質済み）鋼が使用されます。
