S20Cとは【強度・硬度・比重・熱処理など】使い方と注意事項

ここでは、S20Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。

また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS20Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。

スポンサーリンク

S20Cとは

S20CはS25Cと並び、熱処理しないで使用する低炭素鋼としてよく使われています。
同じくらいの炭素量のSS400と比べると、S20Cはキルド鋼であることや、成分が保証されることから高品質となります。

S20Cは浸炭焼入れによって強度も高めることもでき、溶接も可能なため、用途を選ばず使用でる材料です。

S20Cの関連規格

S20Cは下記のJIS規格で規定されています。

S20Cの鋼管は、S20CTKとして規定されています。

規格番号 規格名称 概要
JIS G4051 機械構造用炭素鋼鋼材 S20C素材の成分規定など
JIS G3478 一般機械構造用炭素鋼鋼管 鋼管について規定

S20Cの化学成分

JISで規定された、S20Cの化学成分は下記のとおりです。

S20Cの化学成分[%]

C Si Mn P S
0.18 ~ 0.23 ≦ 0.035i 0.30 ~ 0.60 ≦ 0.030 ≦ 0.035
Ni Cr Cu Ni+Cr
0.20以下 0.20以下 0.30以下 0.35以下

一般構造用圧延鋼材であるSS400と比べると、鋼を脆くする性質の有るPやSの値が低く規定されています。(SS400はP,Sとも0.05以下)

浸炭焼入れ専用のS20CKと比べると、P、S、Cu、Ni+Crが多めになりますが、一般的な浸炭焼入れは問題なくできます。

炭素当量

S20Cの炭素当量は、以下のとおりです。

0.24~0.39

炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。

この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。

S20Cは溶接に適した材料です。

S20Cの機械的性質

S20C以下の鋼種は、浸炭焼入れすることもできます。

浸炭焼入れの場合、200℃程度の焼戻し後、表面硬さはHV650~700程度になります。中心部はHV200程度になると思います。

冷間引抜き加工されたみがき鋼棒(S20C-D)は、焼ならし状態の引張強さよりも強くなります。

下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。

S20Cの機械的性質

熱処理 降伏点

MPa

引張強さ

MPa

伸び

%

絞り

%

シャルピー

衝撃値

J/cm2

硬度

HB

焼きならし 245以上 400以上 28以上 116 ~ 174
焼きなまし 114 ~ 153
焼入れ焼戻し

S20Cの熱処理(焼入れ・調質)

S20CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。

必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。

S20Cの熱処理条件

焼ならし 焼なまし 焼入れ 焼戻し
870 ~ 920℃空冷 約 860℃炉冷

熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりである必要はりません。

浸炭焼入れは、930℃程度で3~4時間浸炭後、そのまま800℃まで下げて、焼入れを行います。

その後、200℃程度で低温焼戻しして使用します。

S20Cの物理的性質

S20Cのヤング率などの物性値は、下表のとおりとなります。

但し下記の値は必ずしもS20Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。

特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。

S20Cの物理的性質

物理的性質 物性値
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] 205~206
横弾性係数[GPa] 79~82
ポアソン比(常温) 0.27~0.29
密度[g/cm3] 7.84~7.86
比重 7.84~7.86
融点[℃] 1660~1770
熱伝導率[W/(m・K)] 44~60
熱膨張係数[10-6/K] 10.7~11.6
固有抵抗[10-8Ω・m] 13.3~19.7
比熱[J/(kg・K)] 0.474~0.494

S20Cの使い方と注意事項

最後にS20C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。

S20Cの用途

S20Cは、切削加工して生材のまま使用する小部品全般に適します。
浸炭焼入れも可能で、母材の強度は低いですが、浸炭焼入れすることで表面に圧縮応力が残り、疲労強度が高くなります。

S20Cの切削加工性

S-C材の切削加工性は良好ですが、その中でもS20C材は、柔らかすぎて切削性がやや劣ります。

NC旋盤加工などの場合、切り屑がからむなどの問題が起こりがちです。

切削性改善のため、S20Cに鉛を添加した鉛快削鋼(S20CL、S20CFなど)も流通しているので、大量生産品の場合は、適用も考慮すべきです。

但し、鉛については、自動車メーカーなどで非鉛化が検討されており、RoHS(EUの特定有害物質の使用制限)などの規制にて、今後使用できなくなる可能性もあります。

S20Cの溶接性

SS400よりも、S20Cの溶接性は良好で、安定した品質の溶接が可能です。

炭素当量が低いので、溶接熱影響部があまり硬化せず、割れなどのトラブルの心配が少ない材料です。

S20Cを浸炭焼入れして使う

S20Cを浸炭焼入れして用いた場合は、表面はもちろん、中心部の強度も高くなるので、強度が要求される部品にも適します。

SS400との使い分け

S20Cの焼準の機械的性質を見ると、400MPa以上となっていて、ちょうどSS400と同じになっています。SS400には炭素量の規定がありませんが、通常0.2%前後のことが多くこれもS20Cに近くなっています。
では何が違うのでしょうか。

品質

S-C材は成分規定があり、品質が安定しています。

S-C材はキルド鋼から、合金鋼と同様の管理のもと製造されます。SS材も現在は連続鋳造で作られるためキルド鋼が多くなっていますが、一部まだリムド鋼のものもあります。

リムド鋼の場合は脱酸が不十分で、リンや硫黄の偏析が多く組織が不均質で材料欠陥が多いため、低温脆性を示す可能性も有り、信頼性の要求される用途には向きません。

使い方

SS材でも溶接はほとんどの場合溶接は問題なくできますが、上記のように品質の劣るSS材も有るので、トラブルを起こすこともあります。

はだ焼入れなど熱処理もできますが、SS材はばらつきが大きく浸炭焼入れすると異常組織になりやすくなります。

よって、SS材は基本的に、生のまま(熱処理しないで)使います。

溶接する場合、信頼性の要求される部品の場合は、S-C材を選ぶべきです。

【関連材料】
S10C S12C S15C S17C S20C S22C S25C S28C S30C S33C S35C S38C S40C S43C S45C S48C S50C S53C S55C S58C S09CK S15CK S20CK
この記事を書いた人
DD
DD

機械設計の仕事をしているエンジニアのDDと申します。
技術士(機械)の資格をもっています。
このブログでは、機械技術から日常の中の科学まで、私が興味を持ったことをできるだけ解りやすく紹介しています!

DDをフォローする
金属材料
スポンサーリンク
シェアする