ここでは、S58Cを使って機械部品の設計するときに必要な情報として、化学成分や機械的性質、熱処理と物理的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、比重やヤング率などの物理的性質や、実際にS58Cを使う上で、使い方や加工性や溶接性などについての注意事項などについてもまとめました。
S58Cとは
S58Cは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)で規定された鋼材です。
機械構造用炭素鋼は、S-C材と呼ばれ、キルド鋼から合金鋼と同様の管理で製造されるので高品質です。
その中でS58Cは、S-C材の中でも最も炭素量が多い鋼材です。
これ以上の炭素量になると、工具鋼になります。
S58Cの関連規格
S58Cは下記のJIS規格で規定されています。
S58Cの鋼管は、S58CTKとして規定されています。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 | S58C素材の成分規定など |
JIS G3478 | 一般機械構造用炭素鋼鋼管 | 鋼管について規定 |
ー | ー | ー |
S58Cの化学成分
JISで規定された、S58Cの化学成分は下記のとおりです。
S58Cの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.55 ~ 0.61 | ≦ 0.035i | 0.60 ~ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.035 |
Ni | Cr | Cu | Ni+Cr |
---|---|---|---|
0.20以下 | 0.20以下 | 0.30以下 | 0.35以下 |
炭素量が増えるほど、硬さは高くなりますが、0.6%位までが限界で、それ以上炭素を増やしても焼入れ硬さはあまり変わりません。
炭素量0.6%以上の炭素工具鋼(SK材)は、耐摩耗性などを良くするために炭素量を増やしています。
炭素当量
S58Cの炭素当量は、以下のとおりです。
0.66~0.82
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
S58Cの機械的性質
下記は、旧JISに掲載されていた、直径25mmの標準試験片での機械的性質です。
もっと太い材料の場合は質量効果により強度が低下しますのでご注意ください。
高炭素鋼は、-30℃以下の低温での衝撃値や、疲労限度の低下が大きいので注意が必要です。
S58Cの機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼きならし | 390以上 | 650以上 | 15以上 | ー | ー | 183 ~ 255 |
焼きなまし | ー | ー | ー | ー | ー | 149 ~ 192 |
焼入れ焼戻し | 590以上 | 780以上 | 14以上 | 35以上 | 59以上 | 229 ~ 285 |
S58Cの熱処理(焼入れ・調質)
S58CのJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
S58Cの熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
800 ~ 850℃空冷 | 約 790℃炉冷 | 800 ~ 850℃水冷 | 550 ~650℃急冷 |
熱処理条件はあくまで、基本の方法であって、必ずしもこのとおりでないといけない訳ではありません。
摩耗や面圧に耐えるために、S58Cの最高焼入れ硬度に近い硬さを得たい場合は、高周波焼入れも用いられます。
S58Cは、炭素量が多いためS-C材の中では最も焼入れ性がよくなります。
S58Cの物理的性質
下記の値は必ずしもS58Cそのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
S58Cの物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 202~205 |
横弾性係数[GPa] | 81~82 |
ポアソン比(常温) | 0.27~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.83~7.84 |
比重 | 7.83~7.84 |
融点[℃] | 1600~1720 |
熱伝導率[W/(m・K)] | 43~44 |
熱膨張係数[10-6/K] | 9.6~10.9 |
固有抵抗[10-8Ω・m] | 19.7~20.4 |
比熱[J/(kg・K)] | 0.494~0.506 |
S58Cの使い方と注意事項
最後にS58C材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
S58Cの用途
C0.6%までは炭素の含有量に比例して焼入れで得られる最高硬さが高くなりますが、0.6%以上に高めても、硬さはあまり変わらなくなります。
S58Cはその上限付近のC量となりますので、強度や耐摩耗性が要求される部品に適しています。
S58C以上の炭素量の鋼種
S-C材の炭素量はS58Cが最大ではありません。
JIS G4051には、S60C、S65C、S70C、S75Cも規定されています。
但し、これらは鋼板及び鋼帯のみに適用され、ほとんどが板バネなどに使われ、S60C-CSP、S65C-CSP、S70C-CSP、S75C-CSPとして流通しています。
棒材や厚板はS58Cが最大の炭素量となります。