C4621は「ネーバル黄銅(海軍黄銅)」と呼ばれる黄銅材料の一種で、主に銅(Cu)、亜鉛(Zn)、微量の鉛(Pb)、そして錫(Sn)を含む合金です。
特に耐海水性(耐食性)に優れていることが最大の特徴で、海洋環境や化学環境など、過酷な条件下での使用に適しています
C4621の特徴と性質
C4621は一般的に次のような特徴があります。
- 優れた耐海水腐食性(特に塩水・湿気の多い環境で強い)
- 高い機械的強度と耐摩耗性
- 加工性が良好(切削や鍛造などがしやすい)
- 高温・高圧・酸性環境でも安定した性能
C4621の用途例
C4621は、海洋・湿潤・高腐食環境に強い構造材用銅合金です。機械部品・海洋機器など構造・摩耗用途で用いられます。
- 海洋産業:船舶部品(プロペラ、シャフト、バルブ、管板など)、海洋構造材
- 化学設備:バルブやコネクター、薬品タンクなど腐食性の高い環境下で使われる部品
- その他:一部自動車部品、航空機部品、電子機器の接続部品など
C4621の化学成分(JIS H3100準拠)
C4621の特徴的な成分は錫です。錫を添加することで、黄銅の耐食性が大幅に向上し、特に海水や湿気の多い環境下での腐食(脱亜鉛腐食など)を抑制します。これにより、船舶部品や海洋機器など、過酷な環境での長期使用が可能となります
元素 | 含有量(%) |
---|---|
銅(Cu) | 61.0~64.0 |
亜鉛(Zn) | 残部 |
鉛(Pb) | 0.2以下 |
鉄(Fe) | 0.1以下 |
錫(Sn) | 0.7~1.5 |
C4621の機械的性質
C4621の代表的な物性は以下の通りです。
項目 | 厚さの区分 | 数値 |
---|---|---|
引張強さ(N/mm²) | 0.8以上 20以下 | 375以上 |
20を超え 40以下 | 345以上 | |
40を超え 120以下 | 315以上 | |
伸び(%) | 20以上 |
C4621の物理的性質(物性値)
C4621の物理特性は下記のとおりです。
項目 | 数値 | 単位 | 備考 |
---|---|---|---|
密度 | 約8.4 | g/cm³ | 黄銅系として標準 |
融点 | 約890 | ℃ | 黄銅系として標準 |
熱伝導率 | 約105 | W/(m·K) | 標準的 |
電気伝導率(20℃) | 約25.3 | %IACS | 電気用途には不向き |
線膨張係数(20~300℃) | 20.5×10⁻⁶ | /K | 標準 |
ヤング率 | 約103 | GPa | 剛性は良好 |
ポアソン比 | 約0.34 | – | 標準 |
C4621と環境負荷物質・規制対応
◆ C4621に含まれる有害物質(JISに準拠)
元素 | 含有量上限 | 備考 |
---|---|---|
鉛(Pb) | 0.2%以下 | RoHS指令の例外規定対象 |
カドミウム(Cd) | 含まれない | 環境規制に完全適合 |
水銀(Hg) | 含まれない | - |
六価クロム(Cr⁶⁺) | 含まれない | - |
PBB/PBDE | 含まれない | 難燃剤不使用 |
C4641の鉛の含有量は、RoHS指令の規定(0.1wt%以下)を超えます。例外規定(6(c))を適用することで使用可能になる場合があります。
機械設計者がC4621を使う際の注意点とトラブル事例
C4621(ネーバル黄銅)は、耐食性や強度に優れる一方で、設計・加工時にいくつかの注意点があります。
◆ 設計上の注意点
項目 | 内容 | 解説・対策 |
---|---|---|
快削性の低下 | 鉛の量が少ないため切削性が劣る | 工具材質や加工条件を最適化する |
コスト高 | 一般黄銅より価格が高め | 錫の添加により価格が高めになるため、コスト面の検討が必要です |
耐食性の評価 | 耐食性の過信 | 海水や湿気の多い環境で優れた耐食性を発揮しますが、使用環境によっては他の材料との比較検討も重要です |
C4621とC4641の違い
C4621とC4641の主な違いは、強度と用途です。C4621は板材(JIS H3100)、C4641は棒材(JIS H3250)として規定されています。
高強度が必要な場合はC4621を、一般的な耐海水性が必要な場合はC4641が適しています。
C4621 | C4641 | |
---|---|---|
耐食性 | 特に耐海水性に優れる | 耐海水性に優れる |
強度 | C4641より高強度 | C4621より強度が劣る |
用途 | 船舶用部品。板材から加工する高強度部品 | 船舶用シャフト、棒材から加工する機械部品 |
まとめ
C4621(ネーバル黄銅)は、耐食性・強度・加工性に優れた合金で、特に海洋環境や化学設備など、厳しい条件下での部品材料として重宝されています。
船舶部品やバルブ、コネクターなど、長期間の耐久性が求められる用途に最適です