SCM822を使って機械部品の設計をするために必要な情報をまとめました。
化学成分や機械的性質、熱処理や物理的性質など、JIS規格の要点を整理しました。
SCM822とは
SCM822は、SCM420~SCM425に近い炭素量ですが、モリブデンの量が多くなっています。
モリブデンは焼入れ性を良くし、焼戻しでの軟化抵抗が大きくなります。高温強度の向上も期待できる材料です。
SCM822の関連規格
SCM822は下記のJIS規格で規定されています。
焼入性保証の材質である、SCM822Hが主流となっており、棒、管についてそれぞれ規格があります。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4053 | 機械構造用合金鋼鋼材 | 成分、寸法などを規定 |
JIS G4052 | 記号:SCM822H 焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼) |
焼入れ性、オーステナイト結晶粒度などを規定 |
JIS G3441 | 機械構造用合金鋼鋼管 | 記号:SCM822TK 鋼管の成分、寸法などを規定 |
JIS G3479 | 焼入性を保証した機械構造用鋼管 | 記号:SCM822HTK 鋼管の焼入れ性、オーステナイト結晶粒度などを規定 |
JISG3509-1 | 冷間圧造用合金鋼-第1部 線材 | 記号:SCM822RCH 線材の成分などについて規定 |
JISG3509-2 | 冷間圧造用合金鋼-第2部:線 | 記号:SCM822WCH 線の機械的性質などを規定 |
SCM822の化学成分
JISで規定された、SCM822の化学成分は下記のとおりです。
SCM420のモリブデン量は、0.15~0.25、SCM420Hは0.15~0.30ですが、SCM822では、下記のとおり多くなっています。
- SCM822の化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.20 ~ 0.25 | 0.15 ~ 0.35 | 0.60 ~ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.030 |
Ni | Cr | Mo | Cu |
---|---|---|---|
≦ 0.25 | 0.90 ~ 1.20 | 0.35 ~ 0.45 | ≦ 0.30 |
- SCM822Hの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.19 ~ 0.25 | 0.15 ~ 0.35 | 0.55 ~ 0.95 | ≦ 0.030 | ≦ 0.030 |
Ni | Cr | Mo | Cu |
---|---|---|---|
≦ 0.25 | 0.85 ~ 1.25 | 0.35 ~ 0.45 | ≦ 0.30 |
炭素当量
SCM822の炭素当量は、以下のとおりです。
SCM822:0.57~0.77
SCM822H:0.55~0.79
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
SCM822の溶接は可能ですが、溶接時の低温割れには注意が必要です。
SCM822の機械的性質
下記の機械的性質は、旧JISに乗っていた、SCM822の参考値です。熱処理条件や質量効果などにより大きく変化しますので、あくまで参考に留めてください。
SCM822の機械的性質
熱処理 | 降伏点 MPa |
引張強さ MPa |
伸び % |
絞り % |
シャルピー 衝撃値 J/cm2 |
硬度 HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼入れ焼戻し | – | 1030以上 | 12以上 | 30以上 | 59以上 | 302~415 |
SCM822の熱処理(焼入れ・調質)
SCM822のJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
SCM822の熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
ー | ー | 1次:850~900℃油冷、2次800~850油冷 | 150~200℃空冷 |
SCM822の物理的性質
下記の値は必ずしもSCM822そのものではなく、炭素量が近い炭素鋼の値となりますので、参考に留めてください。
特に熱伝導率や固有抵抗は成分のバラツキによる変動が大きくなりますのでご注意ください。
SCM822の物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 210~214 |
横弾性係数[GPa] | 82~83 |
ポアソン比(常温) | 0.28~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.81~7.82 |
比重 | 7.81~7.82 |
SCM822の使い方と注意事項
最後にSCM822材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
SCM882は、SCM420の炭素を少し高め、モリブデンの量を増やして焼入れ性を良くした鋼種と考えると良いでしょう。
際立った特徴も無いので、市場への流通量は少なくなっています。