熱膨張とは?原理と身近な例【機械設計】

熱膨張とは何かについて、また、原理や、熱膨張の身近な例についてまとめました。

熱膨張係数(線膨張係数)の一覧についてはこちら

熱膨張の計算式や計算フォームについてはこちらをご覧ください。

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熱膨張とは?

熱膨張とは、温度の変化によって、膨張や収縮する現象のことです。

熱膨張は、固体、液体、気体、全ての状態で起こります。

下図で、青い線の傾きが固体の熱膨張率、水色の線の傾きが液体の熱膨張率、赤い線の傾きが気体の熱膨張率を示します。

液体の熱膨張率は、固体の約100~1000倍、気体の熱膨張率(定圧体積膨張率)は、全ての気体でほぼ一定で、1/273(0.003663)となります。(シャルルの法則)

一般的な物質の体積膨張

融点での体積変化や、沸点での体積変化は、相転移による膨張と呼ばれ、通常は熱膨張には含めません。

熱膨張によって、長さや体積が変わるだけではなく、以下のような現象が同時に起こります。

熱変形(固体)

ゆっくりと温度が変化する場合は、全体が等しく膨張するので相似形に膨張・収縮します。

熱膨張

不均一に温度が変化すると、形状が変化します。

熱応力(固体)

自由に変形できる状態であれば、応力は生じませんが、拘束されていると熱応力が発生します。

熱膨張

圧力変化(液体、気体)

熱膨張が自由にできない容器に入った状態では、圧力変化が起こります。

密度変化(固体、液体、気体)

熱膨張により体積が変化すると、同時に密度が変化します。

液体や気体では、密度の変化により、対流が起こります。

 

熱膨張の原理

物質を作っている原子は常に振動しています。温度が上がると、熱エネルギーの増大によって原子運動が盛んになり、振幅が大きくなるので、体積が増加します。

熱運動

 

熱膨張の身近な例(現象や利用例)

固体

電車の線路

鉄道のレールでは、夏場の熱膨張を考慮してレールの継ぎ目に隙間(伸び代)を設けています。

もし隙間がないとレールが曲がってしまいます。

ガラスのコップ

熱湯をガラスのコップに注ぐと割れてしまう現象は有名です。

お湯を注ぐと内面の温度が上がって膨張しますが、外面に熱が伝わるのに時間がかかるので、外面は膨張せず、その差によって応力が発生して割れてしまします。

耐熱ガラスのコップは、熱膨張係数が小さい材質でできているので、割れが起こりにくくなっています。

ドアの開閉

断熱性の良いドアの場合、直射日光が当たる屋外側と室内側の温度差が大きくなり、開閉しにくくなることがあります。

温度調節

熱膨張係数の異なる金属を張り合わせたバイメタルは、温度変化によって変形します。

これを組み込んだサーモスタット(電気のスイッチ)は、温度が上がるとスイッチがOFFになり、温度が低下するとONになるので、こたつ、アイロン、オーブントースターなどの温度調節に使用されます。

液体

温度計

昔からあるガラス製の温度計や体温計などは、管の中に赤く着色した白灯油、水銀などの液体を封入したものです。これは、温度が変化による液体の熱膨張を利用したものです。

おふろのお湯

お風呂を沸かすとき、上の方が熱くなるのを経験します。これが起こる理由は、常温の水がお湯になると熱膨張によって体積が増加し、同時に密度が低下して軽くなるためです。

気体

冷房・暖房

暖かい空気は熱膨張により密度が低くなるので、上がっていき、冷たい空気は逆に下がってきます。これにより、冷房は床近くが冷たくなりすぎたり、暖房は天井付近ばかり温まってしまうわけです。

熱気球

暖かい空気が上昇する原理を利用したものに熱気球があります。外気との温度差によって浮力を得ます。球皮と呼ばれる大きな袋状のものの中に空気を入れ、ゴンドラをぶら下げて人が乗るわけで、熱膨張を起因とした現象によって発生する力の大きさが判ると思います。

煙突

暖炉や工場の燃焼装置などによる燃焼を効率よくするために煙突が使われます。

内部の高温の空気は熱膨張により浮力を生じ、煙突内に気流が起こります。これにより燃焼に必要な酸素の供給と、排気がスムーズになります。

タイヤの空気圧

タイヤに封入した空気の温度変化によって、膨張・収縮します。空気圧は、10℃の変化で、10kPa(0.1kg/cm2)程度の変化となり走行に影響がでます。

お天気の変化

空気が暖まると熱膨張して密度が下がって軽くなり上昇します。このような熱膨張による流体の動きは対流と呼ばれ、気象の変化の大きな原動力になっています。

 

熱膨張を意識した設計方法

配管

長い直線状のパイプ配管では、熱膨張により、配管の固定部に大きな力がかかったり、曲がりが発生してしまいます。

そこで、配管をクランク状にして、熱膨張による伸びを吸収できるようにしたり、接続部分に長さ変化を吸収できる伸縮継手(エキスパンションジョイント)を使用します。

座屈防止配管形状

内部の流体の熱膨張についても考慮が必要です。

液封の状態(配管内部が液体で充満した状態)だと、流体の熱膨張により配管内部の圧力が上がり、配管やバルブが破損することがあります。

これを防止するためにリリーフ弁を設けたり、一部にホースなどを付けて流体が膨張しても内圧が上がり過ぎないようにします。

配管の液封

大型の部品

大型の部品では、変化量が大きくなるので、予め寸法変化を想定したクリアランスを設けるなどの配慮が必要です。

均一に熱が加わるならまだ想定しやすいのですが、温度変化が早い場合や、高温物体が環境にあり輻射熱を受ける場合など、温度分布が不均一になる場合は、相似形に膨張するだけでなく、曲がりや変形が起こります。

また、大型の部品を急冷した場合、表面だけが収縮しようとするので引張応力が発生します。これを熱衝撃といい、破壊の原因になることがあります。

熱変形

熱変形

熱応力

拘束があり熱変形できない状態だと、応力(熱応力)が発生します。

熱応力

熱膨張によって応力が生じる状態で、繰り返しの熱サイクルが有れば、繰り返しの応力変動を受けることになり、疲労破壊の原因になります。

高温での許容応力低下や、クリープなどにも注意が必要です。

異種材料の組み合わせ

下図の組み合わせ棒を加熱すると、アルミの方が線膨張係数が大きいので、鉄よりも長くなります。異種材組み合わせの熱膨張(無拘束)

上下が連結されている状態だと互いに変形が拘束され、アルミには圧縮応力、鉄には引張応力が発生します。異種材の熱膨張

異種材を組み合わせる場合の工夫

  • なるべく線膨張係数の近い材料選びます。樹脂の場合、ガラス繊維などの強化グレードは非強化グレードに比べて線膨張係数が小さくなります。
  • 温度変化しても部品同士が干渉しないように、隙間を設けたり、接合方法を工夫します。変化量は”元の長さ”に比例するので、元の長さが短い部分で部品同士を組合せることで、隙間を小さくすることができます。

 

焼き嵌め、冷やし嵌め

熱膨張を積極的に利用する組み立て方法に焼き嵌めがあります。

ギヤをシャフトに入れる場合、ギヤの穴をシャフトの外径よりも小さく作っておき、ギヤを加熱して膨張させて軸に通します。

ブロックに設けた穴にブッシュを挿入する場合は、大きなブロックを加熱するのが大変なので、ブッシュを冷やして縮小させて挿入する冷やし嵌めが行われます。

この記事を書いた人
DD
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機械設計の仕事をしているエンジニアのDDと申します。
技術士(機械)の資格をもっています。
このブログでは、機械技術から日常の中の科学まで、私が興味を持ったことをできるだけ解りやすく紹介しています!

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