この記事では、SCM420で機械部品設計をする時に必要になる情報として、化学成分、機械的性質などJIS規格の内容を整理しました。
また、密度やヤング率などの物理的性質や、実際に設計する上で重要な注意事項などについてもできるだけまとめました。
SCM420とは
SCM420は、通常、浸炭焼入れして使用されるクロムモリブデン鋼です。
浸炭焼入れされるSCM415~SCM418と比べて、炭素量が多いので、中心部の硬さや全体の強度が必要な場合に選択します。
SCM420の関連規格
SCM420は下記のJIS規格で規定されています。
焼入性保証の材質である、SCM420Hが主流となっており、棒、管についてそれぞれ規格があります。
規格番号 | 規格名称 | 概要 |
---|---|---|
JIS G4053 | 機械構造用合金鋼鋼材 | 成分、寸法などを規定 |
JIS G4052 | 記号:SCM420H 焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼) |
焼入れ性、オーステナイト結晶粒度などを規定 |
JIS G3441 | 機械構造用合金鋼鋼管 | 記号:SCM420TK 鋼管の成分、寸法などを規定 |
JIS G3479 | 焼入性を保証した機械構造用鋼管 | 記号:SCM420HTK 鋼管の焼入れ性、オーステナイト結晶粒度などを規定 |
JISG3509-1 | 冷間圧造用合金鋼-第1部 線材 | 記号:SCM420RCH 線材の成分などについて規定 |
JISG3509-2 | 冷間圧造用合金鋼-第2部:線 | 記号:SCM420WCH 線の機械的性質などを規定 |
SCM420の化学成分
JISで規定された、SCM420の化学成分は下記のとおりです。
- SCM420の化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.18 ~ 0.23 | 0.15 ~ 0.35 | 0.60 ~ 0.90 | ≦ 0.030 | ≦ 0.030 |
Ni | Cr | Mo | Cu |
---|---|---|---|
≦ 0.25 | 0.90 ~ 1.20 | 0.15 ~ 0.25 | ≦ 0.30 |
- SCM420Hの化学成分[%]
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
0.17 ~ 0.23 | 0.15 ~ 0.35 | 0.55 ~ 0.95 | ≦ 0.030 | ≦ 0.030 |
Ni | Cr | Mo | Cu |
---|---|---|---|
≦ 0.25 | 0.85 ~ 1.25 | 0.15 ~ 0.30 | ≦ 0.30 |
炭素当量
SCM420の炭素当量は、以下のとおりです。
SCM420:0.50~0.70
SCM420H:0.48~0.73
炭素当量は、溶接の熱影響部の脆さを炭素量に換算した数値で示した値です。
この数値が0.44%以上になると溶接割れを起こしやすくなります。
SCM420の機械的性質
下記の機械的性質は、旧JISに乗っていた、SCM420の参考値です。熱処理条件や質量効果などにより大きく変化しますので、あくまで参考に留めてください。
SCM420の機械的性質
熱処理 | 降伏点
MPa |
引張強さ
MPa |
伸び
% |
絞り
% |
シャルピー
衝撃値 J/cm2 |
硬度
HB |
---|---|---|---|---|---|---|
焼入れ焼戻し | – | 930以上 | 14以上 | 40以上 | 59以上 | 262~352 |
SCM420の熱処理(焼入れ・調質)
SCM420のJISに規定された基本的な熱処理条件は下記の通りです。
必ずしもこの通りである必要はなく、必要な強度や硬さを得るために熱処理条件は変更すべきです。
SCM420の熱処理条件
焼ならし | 焼なまし | 焼入れ | 焼戻し |
---|---|---|---|
ー | ー | 1次:850~900℃油冷、2次800~850油冷 | 150~200℃空冷 |
SCM420の物理的性質
下記の値は必ずしもSCM420そのものではなく、成分が近い鋼の値となりますので、参考に留めてください。
SCM420の物理的性質
物理的性質 | 物性値 |
---|---|
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] | 210~214 |
横弾性係数[GPa] | 82~83 |
ポアソン比(常温) | 0.28~0.29 |
密度[g/cm3] | 7.81~7.82 |
比重 | 7.81~7.82 |
SCM420の使い方と注意事項
最後にSCM420材を機械部品に使用する際の一般的な注意事項を挙げます。
浸炭焼入れ、ずぶ焼入れ、どちらを選ぶか
浸炭焼入れの場合は、200℃程度の低温焼戻しが普通です。ずぶ焼入れの場合、600℃前後での焼戻しによって調質するのが普通です。
なので、浸炭焼入れの方が表面が硬いのはもちろん、中心部の硬さや全体の強度も高くなります。
また、浸炭焼入れは、表面に圧縮の残留応力が残るので、疲労にも強くなります。
浸炭焼入れの欠点といえば、処理時間が4時間とか浸炭深さによっては更に長時間かかることや、浸炭深さの管理のため、1個切断する必要があることなど、時間とコストがかかることでしょうか。
強度を上げたいということなら、ずぶ焼入れ、耐摩耗性や疲労強度なら、浸炭焼入れ、という使い分けになるかと思います。