マルテンサイト系ステンレス鋼とは【規格・溶接・強度・磁性など】

マルテンサイト系ステンレス鋼は、耐食性と強度が必要な用途に使用されます。

ここでは、マルテンサイト系ステンレス鋼の特徴、性質と、機械部品に使用する上での注意事項などについてまとめました。

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マルテンサイト系ステンレス鋼とは?

マルテンサイト系ステンレス鋼は、13Crステンレス鋼とも呼ばれ、基本的にクロームが13%含まれたステンレス鋼で、焼入れ焼戻しによって高強度が得られることを特徴としています。

マルテンサイト系ステンレス鋼の用途

マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性は、SUS304などのオーステナイト系、SUS430などのフェライト系より劣るので、水や水溶液に接する用途での防錆としては不十分で、主に大気中での防錆が必要な用途に使用されます。

マルテンサイト系の標準鋼であるSUS410は、低炭素化により比較的耐食性が良いので、バルブシート、ポンプシャフトなど、一般機械部品に広く使用されます。

中炭素鋼程度の炭素を含むSUS420は、スプリング、ボルト、プラスチックの金型、ナイフなどに使われます。

SUS440Cはステンレス鋼の中で最も硬くて耐摩耗性があるので、刃物、ゲージ類、軸受用硬球などに使用されます。

マルテンサイト系ステンレス鋼の種類

マルテンサイト系の種類は下記のとおりです。主なものはクリックすると詳細ページに飛びます。

(◎:特に優れる、○:優れる、マルテンサイト系ステンレス鋼の中での比較です)

種類特徴的な成分特徴
耐食性強度
硬度
高温被削性その他
SUS403低C、低Si高温強度
SUS410低C代表鋼種
SUS410S極低C加工性
SUS410J1Moクリープ性
SUS410F2Pb
SUS416S被削性
SUS420J1C増
SUS420J2C増
SUS420FS
SUS420F2Pb
SUS431Ni、Cr増耐食性、焼入れ硬化性
SUS440AC増、Cr増、Mo増耐摩耗性
SUS440BC増、Cr増、Mo増耐摩耗性
SUS440CC増、Cr増、Mo増最高硬度、耐摩耗性
SUS440FS被削性

マルテンサイト系ステンレス鋼の規格

JIS規格は下記があります。

「JIS G3601 ステンレスクラッド鋼」
「JIS G3446 機械構造用ステンレス鋼鋼管」
「JIS G3463 ボイラ・熱交換器用ステンレス鋼鋼管」
「JIS G4303 ステンレス鋼棒」
「JIS G4304 熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」
「JIS G4305 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」
「JIS G4308 ステンレス鋼線材」
「JIS G4309 ステンレス鋼線」
「JIS G4311 耐熱鋼棒及び線材」
「JIS G4312 耐熱鋼板及び鋼帯」
「JIS G4313 ばね用ステンレス鋼帯」
「JIS G4315 冷間圧造用ステンレス鋼線」
「JIS G4317 熱間成形ステンレス鋼形鋼」
「JIS G4318 冷間仕上ステンレス鋼棒」
「JIS G4319 ステンレス鋼鍛鋼品用鋼片」

マルテンサイト系ステンレス鋼の強度

マルテンサイト系ステンレス鋼は、炭素鋼と同様に焼入れが可能で、多量のクロムにより焼入れ性が良いので容易に焼きが入ります。

焼戻しによって靭性をもたせることで、優れた機械的性質を得られます。

焼戻しは650~700℃程度で行うのが通常で、SUS410で引張強さ540MPa以上、伸び25%以上が得られます。

刃物などに使用する場合は、150~200℃程度の低温焼戻しを行います。この場合は、SUS410で引張強さ1400MPa程度が得られます。

マルテンサイト系ステンレス鋼の耐熱性

マルテンサイト系ステンレス鋼には、フェライト系と同様に475℃脆化の可能性があるので、高温での使用には注意が必要です。

また、マルテンサイト系は焼入れ焼戻しして使うので、高温で使用すれば焼戻しされて強度が低下します。(上記の焼戻し温度との関係参照)

低温については、体心立方格子のため低温脆化が有ります。

※475℃脆化:450~500℃での長時間保持で発生する脆性

マルテンサイト系ステンレス鋼の溶接性

SUS403,SUS410などのマルテンサイト系ステンレス鋼を溶接すると、溶接部に焼きが入って、硬く、脆くなり、靭性や延性が低下します。

高炭素鋼と同様に、溶接に向く材料ではないのですが、溶接する場合は冷却速度を遅くして焼きが入らないようにすることです。

冷却速度を遅くしても、フェライト系(SUS430)のようなσ相脆化の可能性は少ないとされます。

予熱によって母材を加熱しておくことで周囲への熱の逃げを減らすことや、溶接後に後熱を行って冷却速度を遅くしたりします。

マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性

マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性は、ステンレス鋼の中では最も劣ります。

空気中で不動態皮膜ができる最低限のクロムを含むので空気中では錆びにくいものの、水溶液中での防錆は不十分です。

炭素量を減らした、SUS403やSUS410Sは比較的耐食性に優れています。

マルテンサイト系ステンレス鋼の磁性

マルテンサイト系ステンレス鋼は、フェライト系と同様、強磁性です。

オーステナイト系のSUS304とは異なり、磁石にくっつく性質を持っています。

マルテンサイト系ステンレス鋼まとめ

マルテンサイト系ステンレス鋼は、強度と耐食性を両立できる素材で機械部品設計に不可欠ですが、耐食性には限界があります。

クロムと炭素の量で特性が変わり種類が多くなってますので、その特性をよく理解して選定すべきです。

SUS403とは【強度・比重・硬度・成分など】

SUS410とは【強度・比重・硬度・成分など】

SUS420J2とは【強度・比重・硬度・成分など】

SUS440Cとは【強度・比重・硬度・成分など】

この記事を書いた人
DD

機械設計の仕事をしているエンジニアのDDと申します。
技術士(機械)の資格をもっています。
このブログでは、機械技術から日常の中の科学まで、私が興味を持ったことをできるだけ解りやすく紹介しています!

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