SUS304とは【比重・硬度・成分など】使い方と注意事項

SUS304は、ステンレス鋼の中では最も一般的で、家庭用品から工業部品まで幅広く使用されています。

ここでは、SUS304の特徴や詳細な性質についてまとめました。

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SUS304とは?

まずは、SUS304とは、どのようなものなのか、その特徴と機械部品に適用する場合の注意事項などについてご説明します。

SUS304の用途

SUS304は、鉄鋼材と比較して、同等の強度があり、非常に錆びにくい性質があります。

高価なことと、加工に手間がかかるので、比較的高級、高額な製品に使われています。

家庭用品では、「18-8ステンレス」と呼ばれ、スプーン・フォークなどの食器などに使われています。

ステンレス鋼

SUS304の強度

引張強さは、520MPa以上(※1)となっていて、これは代表的な軟鋼であるSS400の400MPaよりも高い強度です。しかし、耐力は205以上(※1)とやや低くなっています。

また、SUS304は、加工硬化しやすい特徴があるので、冷間加工によって大幅に強度が高まります。

例えば、細い線に引き抜き加工して使用する、ばね用のΦ0.2mm以下のSUS304-WPB材の場合、引張強さは2150~2400MPa(※2)に達します。

※1:JIS G4303 ステンレス鋼棒

※2:JIS G4314 ばね用ステンレス鋼線

SUS304の耐熱性

機械部品として安全に使える上限温度は、おおよそ450℃~600℃程度と考えるのが一般的です。

温度の上昇にともなって強度は低下し、750℃では常温の約1/3となります。更に上の温度でも使えない訳ではありませんがクリープなども問題になってきます。例えば1050℃の炉中ろう付けの治具としてSUS304が使われていたりしますが、徐々に変形して使えなくなります。

また、600℃~800℃の温度で10分程度以上加熱されると鋭敏化(※)を起こし耐食性が悪化しますので、耐食性が問題となる場合はこの温度範囲で使用してはいけません。

塑性加工を受けた材料(鍛造、加工率の高い引き抜き材、薄板など)は、450℃でも1時間程度で鋭敏化が起こります。

低温については、低温脆性の心配もなく、液体窒素の温度:-196℃でも使用可能です。(下記、磁性の項参照)

※:クロム炭化物が析出することによって母材のクロムが欠乏(13%以下)し、粒界腐食や粒界型の応力腐食割れを起こしやすくなる現象

SUS304の耐食性

耐食性は非常に良好ですが、応力腐食割れの心配があります

応力腐食割れは、腐食環境において低い荷重で破壊が発生してしまう現象です。詳しくはこちらの記事もご欄ください。

上記のような高温での使用の他、注意が必要なのは、溶接した場合です。

溶接したものは、溶接熱影響部が鋭敏化している場合があり、応力腐食割れの原因となります。

配管や容器などでの事故例もありますので十分にご注意ください。

SUS304の熱伝導性

鉄鋼材の熱伝導率が50W/m・K前後、アルミニウム合金が120~200W/m・K程度であるのに対し、SUS304の熱伝導率は、16W/m・K(常温)と低くなっています

家庭用の鍋では、アルミ鍋よりもじっくりと熱が伝わりますので煮込みには向いてますね。

切削加工では、刃先の温度が上がりやすいので、加工速度が上げられなかったり、ツールの持ちが悪くなったりします。

部品を摺動させる機械や、圧入加工などの場合、摩擦熱が逃げないので接触部の温度が上がりやすくなります。特に、SUS304同士の部品を組み合わせると、かじりや焼付きを起こす場合があります。

SUS304の磁性

SUS304はオーステナイト系なので、磁石には付きません。

しかし、高強度材を使ったスプリングや、プレスで加工率の高い絞り加工などで作った部品に磁石を近づけると、弱い力でくっつこうとします。

これは、冷間加工によって、面心立方格子のオーステナイトから、体心立方格子のマルテンサイトが生じたためです。

極低温でも、同様にマルテンサイト変態が一部起こり、わずかに磁性を帯びるようになることもあります。

SUS304の表面処理

SUS304は、ステンレス鋼なので通常は表面処理無しで使用できます。

ステンレス鋼が錆びない理由は、不動態皮膜という非常に薄い酸化クロムの皮膜ができるからです。

大気中でも不動態皮膜は形成されますが、表面に付着した異物などの電気化学的な影響で、不完全な不動態皮膜になりがちです。

この被膜をより強固にしたい場合、パシベート処理(不動態化処理)を行います。

パシベート処理は、硝酸などの酸で表面を酸化させる処理で、表面の異物を除去する効果もあります。航空機用の部品などでは多用されています。

SUS304の価格

SUS304は、Niなどの高価な元素が入っているので鉄鋼よりも高価です。

形状や条件により大きく異なりますが、ざっくり鉄鋼の4~5倍程度と思っておけば良いかと思います。

鉄鋼材ではめっきや塗装が必要ですが、SUS304では不要になるメリットを生かし、小型部品などではトータルでSUSの方が安いというようなケースも考えられます。

他の材料との使い分け

SUS304で問題がある場合は下記の材質が候補となります。

耐食性を良くしたい

SUS304L、SUS316L

鋭敏化による腐食が問題となる場合は、強度は低下しますが、炭素量を減らしたSUS304Lや、SUS316Lを選定します。

SUS316,SUS316Lとは【比重・硬度・成分など】使い方と注意事項

切削性を良くしたい

SUS303

SUS304の切削性はあまり良くないので、切削性を改善したい場合は、硫黄を添加した開削ステンレス鋼であるSUS303が候補となります。

SUS303とは【比重・硬度・成分など】使い方と注意事項

コストを安くしたい

SUS430

フェライト系ステンレス鋼の代表であるSUS430はニッケルを含まないので安価になります。

フェライト系ステンレス鋼は、耐食性がSUS304より劣り、錆が発生することも有りますが、応力腐食割れには強い特徴もあります。

SUS430とは【成分・比重・溶接性など】使い方と注意事項

SUS304の機械的性質

JIS G4303 ステンレス鋼棒」によるSUS304の機械的性質を下記に示します。

【SUS304の機械的性質】

機械的性質
引張強さ[MPa] 520以上
0.2%耐力[MPa] 205以上
伸び[%] 40以上
絞り[%] 60以上
ブリネル硬さ[HBW] 187以下
ブリネル硬さ[HRBS又はHRBW] 90以下
ビッカース硬さ[HV] 200以下

注:硬さは上記のいずれか1種類を適用します。

SUS304の物理的性質

SUS304の物理的性質は下表のとおりです。

【SUS304の物理的性質】

物理的性質 条件 物性値
密度[g/cm3] 7.93
比重 7.93
融点[K] 1671~1700
比熱[J/(g・K)] 0~100℃ 0.50
熱伝導度[W/(m・K)] 20~100℃ 16.3
縦弾性係数(ヤング率)[GPa] 197
横弾性係数[GPa] 73.7
ポアソン比 0.291~0.298
線膨張係数[10-6/K] 0~100℃ 17.3

SUS304の成分

「JIS G4303 ステンレス鋼棒」では成分は下記のとおり規定されています。

【SUS304の化学成分[%]】

元素 比率
C 0.08以下
Si 1.00以下
Mn 2.00以下
P 0.045以下
S 0.030以下
Ni 8.00 ~ 10.50
Cr 18.00 ~ 20.00

SUS304まとめ

SUS304は、設計者にとってとても使いやすい材料ですが、加工性の悪さによるトラブルや、使用中のトラブル(応力腐食割れなど)には注意が必要です。

過信せず、その特質をよく理解して適用しましょう。

この記事を書いた人
DD
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機械設計の仕事をしているエンジニアのDDと申します。
技術士(機械)の資格をもっています。
このブログでは、機械技術から日常の中の科学まで、私が興味を持ったことをできるだけ解りやすく紹介しています!

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