66ナイロンについて、耐熱性や強度などの機械的性質や物理的性質、また、機械部品に適用する場合の注意事項についてまとめました。
66ナイロンとは
66ナイロンはポリアミド-66(PA-66)とも呼ばれるエンジニアリングプラスチックです。
炭素Cが6ヶづつ2対あるので6-6ナイロンと呼ばれます。
CとHの部分はポリエチレンと同じ配列で、規則的にアミド基(-CO-NH2)が入った形になっています。たくさんある樹脂の性質を覚えるのは機械屋さんには大変なので、
とだけ覚えておきましょう。これだけ覚えておけば、ナイロンの性質が芋づる式に理解できます。
結合力(分子間力)が大きい
=高強度、耐熱性に優れる
極性がある
=親水性がある⇒耐油性良し、耐酸性悪し
=吸水性がある⇒強度が低下する、伸びが増える、寸法安定性が悪い
適度に吸水することで強靭な特性となるので、機械部品に使いやすい材料だと言えます。
66ナイロンの強度と性質
66ナイロンの標準的な材質の、比重やヤング率、耐熱温度などの性質は下記のとおりです。
乾燥状態と吸水状態で大幅に性質が異なるため、両方の値となっています。
2.5%吸水は、23℃×50%RHでの平衡状態です。
より正確な値が必要な場合は、使用するグレードのデーターシートをご確認ください。
標準グレード
項目 | 絶乾 | 2.5%吸水 |
---|---|---|
比重 | 1.14 | – |
密度(23℃)[g/cm3] | 1.14 | – |
引張弾性率(ヤング率)(23℃)[GPa] | 3 | 1.2 |
引張強さ(-40℃)[MPa] | 115 | 110 |
引張強さ(23℃)[MPa] | 80 | 50 |
引張強さ(80℃)[MPa] | 40 | 40 |
引張降伏ひずみ(23℃)[%] | 1.5~4 | 24 |
引張破断ひずみ(23℃)[%] | 25 | >50 |
曲げ強さ(-40℃)[MPa] | 140 | 125 |
曲げ強さ(23℃)[MPa] | 113~115 | 42~65 |
曲げ強さ(80℃)[MPa] | 65 | 40 |
曲げ弾性率(-40℃)[GPa] | 4.3 | 4.1 |
曲げ弾性率(23℃)[GPa] | 2.7~2.8 | 1.1~1.4 |
曲げ弾性率(80℃)[GPa] | 0.9 | 0.5 |
圧縮降伏強さ(23℃)[MPa] | 90 | – |
摩擦係数(潤滑油無し) | 0.15~0.2 | – |
剪断強さ(23℃)[MPa] | 80 | 75 |
ロックウェル硬さ(23℃)[HRR] | 119 | 100 |
ロックウェル硬さ(80℃)[HRR] | 97 | – |
テーパー摩耗(mg/1000回) | 8 | – |
シャルピー衝撃強さ(ノッチ付、-40℃)[kJ/m2] | 2.5 | – |
シャルピー衝撃強さ(ノッチ付、23℃)[kJ/m2] | 4 | 23.5 |
シャルピー衝撃強さ(ノッチ無、-40℃)[kJ/m2] | 破断せず | – |
シャルピー衝撃強さ(ノッチ無、23℃)[kJ/m2] | 破断せず | – |
融点[℃] | 265 | – |
ガラス転移点[℃] | 50 | – |
比熱[J/g・℃] | 2.1 | – |
熱伝導率[W/m・℃] | 0.32 | – |
線膨張係数[×10-5/℃] | 8~10 | – |
荷重たわみ温度 (荷重1.8MPa)[℃] | 70 | – |
荷重たわみ温度 (荷重0.45MPa)[℃] | 190~220 | – |
UL長期耐熱温度(衝撃有り)[℃] | 105 | – |
燃焼性(UL94ランク 1/64″)) | V-2 | V-2 |
体積固有抵抗[Ω・m] | 1012~1013 | 1010~1011 |
耐電圧(絶縁破壊強さ)[MV/m] | 18 | – |
比誘電率(23℃、60%RH、50Hz) | 4 | 7.5 |
比誘電率(23℃、60%RH、1KHz) | 3.9 | 6.5 |
比誘電率(23℃、60%RH、1MHz) | 3.3 | 3.8 |
誘電正接(23℃、60%RH、50Hz) | 0.03 | 0.06 |
誘電正接(23℃、60%RH、1KHz) | 0.03 | 0.06 |
誘電正接(23℃、60%RH、1MHz) | 0.02 | 0.07 |
耐トラッキング性(CTI)[V] | 600 | – |
アーク抵抗(タングステン電極)[sec] | 130 | – |
整形収縮率[%] | 0.8~2.2 | – |
ガラス強化
強化グレード(GF30%)性質については下表のとおりです。
項目 | 絶乾 | 2.5%吸水 |
---|---|---|
比重 | 1.37 | – |
密度(23℃)[g/cm3] | 1.37 | – |
引張弾性率(ヤング率)(23℃)[GPa] | 10 | 8 |
引張強さ(-40℃)[MPa] | 235 | 215 |
引張強さ(23℃)[MPa] | 190 | 140 |
引張強さ(80℃)[MPa] | 120 | 100 |
引張破断ひずみ(-40℃)[%] | 2 | 2.5 |
引張破断ひずみ(23℃)[%] | 2.5~3 | 3~5 |
引張破断ひずみ(80℃)[%] | 5 | 5.5 |
曲げ強さ(-40℃)[MPa] | 325 | 315 |
曲げ強さ(23℃)[MPa] | 275~290 | 202~215 |
曲げ強さ(80℃)[MPa] | 190 | 135 |
曲げ弾性率(-40℃)[GPa] | 11.6 | 10.5 |
曲げ弾性率(23℃)[GPa] | 9~9.5 | 6.8 |
曲げ弾性率(80℃)[GPa] | 5.8 | 4.3 |
圧縮降伏強さ(-40℃)[MPa] | 250 | 200 |
圧縮降伏強さ(23℃)[MPa] | 180 | 110 |
圧縮降伏強さ(80℃)[MPa] | 110 | 70 |
摩擦係数(潤滑油無し) | 0.15 | – |
剪断強さ(23℃)[MPa] | 95 | 85 |
ロックウェル硬さ(23℃)[HRR] | 120 | 112 |
テーパー摩耗(mg/1000回) | 0.4 | – |
シャルピー衝撃強さ(ノッチ付、-40℃)[kJ/m2] | 10 | 12 |
シャルピー衝撃強さ(ノッチ付、23℃)[kJ/m2] | 13 | 16 |
シャルピー衝撃強さ(ノッチ無、-40℃)[kJ/m2] | 60 | 70 |
シャルピー衝撃強さ(ノッチ無、23℃)[kJ/m2] | 65 | 75 |
融点[℃] | 265 | – |
ガラス転移点[℃] | 50 | – |
比熱[J/g・℃] | 1.8 | – |
熱伝導率[W/m・℃] | 0.4 | – |
線膨張係数[×10-5/℃] | 2~3 | – |
荷重たわみ温度 (荷重1.8MPa)[℃] | 250 | – |
荷重たわみ温度 (荷重0.45MPa)[℃] | 262~265 | – |
UL長期耐熱温度(衝撃有り)[℃] | 105 | – |
燃焼性(UL94ランク 1/64″)) | HB | HB |
体積固有抵抗[Ω・m] | 1013~1015 | 1010~1011 |
耐電圧(絶縁破壊強さ)[MV/m] | 20 | 17 |
比誘電率(23℃、60%RH、50Hz) | 4.6 | 6.3 |
比誘電率(23℃、60%RH、1KHz) | 4.4 | 5.5 |
比誘電率(23℃、60%RH、1MHz) | 3.9 | 4 |
誘電正接(23℃、60%RH、50Hz) | 0.02 | 0.08 |
誘電正接(23℃、60%RH、1KHz) | 0.02 | 0.08 |
誘電正接(23℃、60%RH、1MHz) | 0.02 | 0.04 |
耐トラッキング性(CTI)[V] | 600 | – |
アーク抵抗(タングステン電極)[sec] | 114 | 120 |
整形収縮率[%] | 0.2~0.9 | – |
66ナイロンの使った設計法
66ナイロンを使って機械部品を設計するときの注意事項についてご説明します。
吸水性
ナイロンはアミド基を持つため親水性が有るので、吸水率が最大10%と大きく、乾燥状態と吸湿状態では特性がまるで違います。(2.5%吸水状態は、50%RHでの平衡状態)
吸水率による特性の違い(非強化グレード)
項目 | 絶乾 | 2.5%吸水 |
---|---|---|
吸水率[%] | 0 | 2.5 |
引張強度[MPa] | 80 | 50 |
伸び[%] | 25 | 50以上 |
寸法変化率[%] | 0 | 0.4~0.5 |
飽和吸水状態では、絶乾に対して強度が1/4~1/5に低下します。
吸水性はデメリットになりますが、吸水性のおかげで他の樹脂材にない柔軟性や靭性を得ている面もあります。
大気中の平衡状態では、強度のバランスの良い特性になるので、機械部品に多く使用されています。
寸法精度
上記の吸水性により、給水すると膨張するので寸法精度はよく有りません。
成形直後の絶乾状態で寸法検査で合格しても、1~2ヶ月後に測定したらNGということも十分有り得ます。
年間の湿度変化が、20~90%RHといった日本のような環境では、吸水率が1.5~3%程度の変化となります。
このとき、寸法は絶乾状態と比較して、0.2~0.6%程度大きくなる方向で変動し、夏と冬で在庫部品の寸法が変わり問題になることがあります。
通常の部品なら、ポリエチレン袋に入れて保管するなどの配慮をすれば、さほど問題になることはないと思います。
寸法や特性の要求がシビアな部品の場合は、アニール処理や調湿処理を行います。