ナイロン(ポリアミド)は、代表的なエンジニアリングプラスチックであり、様々な機械部品に使用されています。
中でも、6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、46ナイロン、66ナイロンは、使用量が多く、それぞれ異なる特徴を持ち、用途も多岐にわたります。
この記事では、これらのナイロンについて、その特徴や用途などについて詳しく解説していきます。
各ナイロンの特徴と比較
ナイロン46(PA46)の特徴
用途
高温環境での機械部品やエンジン部品、ギア、摩耗部品。
耐熱性:
ナイロン46は高温環境での使用に非常に優れています。連続使用温度が約200°Cと高く、熱変形温度(HDT)は約290°C(1.8 MPa)に達します。これは、エンジン部品や電子機器の高温部分などに適しています。
機械的強度:
引張強度が約80 MPaと高く、引張弾性率は約3000 MPaです。これにより、高負荷環境での使用が可能です。また、耐クリープ性にも優れており、長時間の負荷がかかる用途に適しています。
摩耗と摩擦特性:
摩耗抵抗が高く、摩擦係数は約0.3です。この特性により、ギアや軸受などの摩耗が激しい部品に使用されます。
耐薬品性:
多くの化学薬品やオイルに対して優れた耐性を持っています。
ナイロン66(PA66)の特徴
用途
一般的な機械部品、構造材料、電子機器のハウジング。
耐熱性:
高強度で耐熱性にも優れています。
連続使用温度は約150°Cで、熱変形温度(HDT)は約250°C(1.8 MPa)です。高温環境での使用が可能ですが、ナイロン46ほど高温には耐えられません。
機械的強度:
引張強度が約70-85 MPa、引張弾性率は約2900 MPaです。多くの汎用的な用途で使用され、機械的強度と耐衝撃性に優れています。
摩耗と摩擦特性:
摩擦係数は約0.3で、耐摩耗性も優れています。機械部品や構造材料として広く使用されます。
耐薬品性:
多くの化学薬品に対して耐性がありますが、ナイロン46よりは劣ります。
ナイロン6(PA6)の特徴
用途
汎用エンジニアリングプラスチックとして、自動車部品、電気部品、消費財。
耐熱性:
6ナイロンは強度と加工性のバランスが良く、広く利用されています
連続使用温度は約100°C – 120°Cで、熱変形温度(HDT)は約180°C(1.8 MPa)です。耐熱性はナイロン66よりも低いですが、多くの一般的な用途に適しています。
機械的強度:
引張強度は約60-80 MPa、引張弾性率は約2400-3000 MPaです。汎用エンジニアリングプラスチックとして、様々な用途に使用されます。
摩耗と摩擦特性:
摩擦係数は約0.3-0.4で、耐摩耗性があります。機械部品や消費財に適しています。
耐薬品性:
優れた耐薬品性を持ち、多くの化学薬品に対して耐性があります。
ナイロン11(PA11)の特徴
用途
柔軟性が必要な配管、チューブ、ケーブルコーティング。
耐熱性:
連続使用温度は約90°C – 105°Cで、熱変形温度(HDT)は約190°C(1.8 MPa)です。耐熱性はナイロン6よりも低いですが、特定の用途に適しています。
機械的強度:
引張強度は約50-60 MPa、引張弾性率は約1300-1800 MPaです。機械的強度は他のナイロンに比べて低いですが、柔軟性があります。
摩擦と摩耗特性:
摩擦係数は約0.2-0.3で、摩耗抵抗は高くありませんが、柔軟性があります。
耐薬品性:
非常に優れた耐薬品性を持ち、多くの化学薬品に対して耐性があります。特に油やガソリンに対する耐性が高いです。
ナイロン12(PA12)の特徴
用途
柔軟性と耐薬品性が必要な配管、燃料ライン、チューブ、ケーブルコーティング。
耐熱性:
連続使用温度は約90°C – 100°Cで、熱変形温度(HDT)は約170°C(1.8 MPa)です。耐熱性はナイロン11とほぼ同じですが、特定の用途に適しています。
機械的強度:
引張強度は約50-70 MPa、引張弾性率は約1400-2000 MPaです。柔軟性と耐衝撃性に優れています。
摩擦と摩耗特性:
摩擦係数は約0.25-0.35で、摩耗抵抗は高くありませんが、柔軟性があります。
耐薬品性:
非常に優れた耐薬品性を持ち、多くの化学薬品に対して耐性があります。特に油やガソリンに対する耐性が高いです。
各ナイロンの比較表
物理的性質、機械的性質は下記のとおりです。
各数値は一例ですので、詳しい値は材料メーカーのカタログ・資料などで確認してください。
特性 | ナイロン46(PA46) | ナイロン66(PA66) | ナイロン6(PA6) | ナイロン11(PA11) | ナイロン12(PA12) |
---|---|---|---|---|---|
連続使用温度 | 約 200°C | 約 150°C | 約 100°C – 120°C | 約 90°C – 105°C | 約 90°C – 100°C |
熱変形温度(HDT) | 約 290°C(1.8 MPa) | 約 250°C(1.8 MPa) | 約 180°C(1.8 MPa) | 約 190°C(1.8 MPa) | 約 170°C(1.8 MPa) |
引張強度 | 約 80 MPa | 約 70-85 MPa | 約 60-80 MPa | 約 50-60 MPa | 約 50-70 MPa |
引張弾性率 | 約 3000 MPa | 約 2900 MPa | 約 2400-3000 MPa | 約 1300-1800 MPa | 約 1400-2000 MPa |
摩擦係数 | 約 0.3 | 約 0.3 | 約 0.3-0.4 | 約 0.2-0.3 | 約 0.25-0.35 |
耐薬品性 | 優れている | 優れているがPA46に劣る | 優れている | 非常に優れている | 非常に優れている |
ナイロンの吸水性
ナイロンは、アミド基(-CONH-)を持っていて、これは、水と水素結合を形成しやすいため、吸水性が高くなります。吸水性はナイロンの機械的特性や寸法安定性に影響を与えるため、機械部品の設計の際は注意が必要です。
吸水性は、アミド基濃度の高いほど大きくなり、特にナイロン66とナイロン6はアミド基の密度が高いので、吸水性が高くなります。
ナイロン46、11、および12は吸水性が低く、湿気や水による特性変化が少ないため、寸法安定性が求められる用途や湿気の多い環境での使用に適しています。
吸水性の比較
特性 | ナイロン46(PA46) | ナイロン66(PA66) | ナイロン6(PA6) | ナイロン11(PA11) | ナイロン12(PA12) |
---|---|---|---|---|---|
吸水率(飽和) | 約 2.0 % | 約 8.5 % | 約 9.5 % | 約 1.0 % | 約 1.2 % |
吸水率(24時間) | 約 0.4 % | 約 1.5 % | 約 1.5 % | 約 0.2 % | 約 0.25 % |
ナイロンの強化方法
ナイロンは、その特性を生かして様々な分野で利用されていますが、より高い強度や耐熱性、寸法安定性などが求められる場合もあります。そこで、ナイロンの性能を向上させるために、様々な強化方法が採用されています。
1. 繊維強化
- ガラス繊維: ナイロンに最も多く用いられる強化材です。強度、剛性、耐熱性を大幅に向上させ、寸法安定性も高めます。短繊維、長繊維、無機充填剤との複合など、様々な組み合わせが可能です。
- 炭素繊維: ガラス繊維よりも高価ですが、非常に高い強度と剛性、軽量化効果が得られます。自動車部品や航空機部品など、高性能が求められる用途に用いられます。
- アラミド繊維: 高強度、高弾性、耐熱性に優れており、耐摩耗性も高いです。防弾チョッキやタイヤコードなど、特殊な用途に用いられます。
2. 無機充填材
- タルク: 強度、剛性、耐熱性を向上させ、寸法安定性も高めます。コストも比較的安価です。
- マイカ: 電気絶縁性、耐熱性、潤滑性を向上させます。
- 炭酸カルシウム: 比重が軽く、コストも安価です。
3. その他の強化方法
- 共重合: 他のモノマーと共重合させることで、耐熱性や耐薬品性を向上させることができます。
- ブレンド: 他のポリマーとブレンドすることで、新しい特性を持たせることができます。
強化による効果
- 強度向上: 引張強度、曲げ強度、圧縮強度などが向上します。
- 剛性向上: 変形しにくくなり、寸法安定性が向上します。
- 耐熱性向上: 高温下での変形や軟化が抑制されます。
- 耐摩耗性向上: 表面が硬くなり、摩耗しにくくなります。
- 寸法安定性向上: 吸水率が低下し、寸法変化が小さくなります。
強化の注意点
- 強化材の種類や配合量によって、ナイロンの特性は大きく変化します。
- 強化材の配合が多すぎると、加工性が悪化したり、脆くなったりすることがあります。
- 強化材の種類と配合量を適切に選ぶことが重要です。
まとめ
ナイロンは、汎用エンプラの中で、強度、耐熱性、加工性などのバランスが良く、様々な用途に使用せれています。
化学構造の違いによって、特性に大きな違いがあり、ガラス繊維などでの強化によっても大きく特性が変わるので、用途に合わせて適切な強化方法を選ぶことが大切です。