C3602はJISに規定された快削黄銅の一種で、切削加工性を高めた銅合金です。
銅と亜鉛に加えて鉛(Pb)を含むことで、切削性が大きく向上しており、自動旋盤などでの量産加工に適しています。
C3602の特徴と性質
C3602は一般的に次のような特徴があります。
- 優れた切削性:鉛の作用により、バリの少ない精密加工が可能。
- 寸法精度が高い:工具摩耗が少なく、高精度部品に最適。
- 適度な強度と剛性:機械部品として十分な強度を持つ。
- 電気伝導性・耐食性は中程度:銅合金として標準的な性能。
C3602の用途例
C3602はその高い切削性から、自動旋盤部品など、精密加工を要する部品に使われています。
- 自動車部品(継手・シャフト・バルブ部品)
- 水道金具、接続部品
- 電子機器の端子・コネクター
- 精密機械部品、ネジ・ナット
- 家電製品の構造部材
C3602の化学成分(JIS H3250準拠)
C3602の主な化学成分は以下の通りです。鉛を含むことで快削性が向上しています。
元素 | 含有量(%) |
---|---|
銅(Cu) | 59.0~63.0 |
亜鉛(Zn) | 残部 |
鉛(Pb) | 1.8~3.7 |
鉄(Fe) | ≦0.5 |
錫(Sn) | Fe+Sn≦0.80 |
ニッケル(Ni) | ≦0.20 |
ヒ素(As) | ≦0.02 |
※C3602はJIS H3250(棒・線)に適合する標準的な快削黄銅です。板材の流通は有りません。
C3602の機械的性質(JIS H3250準拠)
C3602の代表的な物性は以下の通りです。
項目 | 数値 |
---|---|
引張強さ(N/mm²) | 315以上 |
伸び(%) | - |
硬さ(HV) | 75以上 |
- 切削時の寸法安定性が高く、工具寿命の延長にも寄与します。
C3602の物理的性質(物性値)
C3602は鉛含有により加工性が強化された黄銅で、以下のような物理特性を示します。
項目 | 数値 | 単位 | 備考 |
---|---|---|---|
密度 | 約8.5 | g/cm³ | 鉛含有による増加 |
融点 | 約880~900 | ℃ | Cu-Zn系標準 |
熱伝導率 | 約110 | W/(m·K) | 銅よりは低い |
電気伝導率(20℃) | 約25 | %IACS | 電気部品用途では要確認 |
線膨張係数(20~300℃) | 20.5×10⁻⁶ | /K | 黄銅標準 |
ヤング率 | 約103 | GPa | 剛性良好 |
ポアソン比 | 約0.34 | – | 標準 |
C3602と環境負荷物質・規制対応
◆ C3602に含まれる有害物質(JISに準拠)
元素 | 含有量上限 | 備考 |
---|---|---|
鉛(Pb) | 1.8~3.7% | RoHS指令の例外規定対象 |
カドミウム(Cd) | 含まれない | 環境規制に適合 |
水銀(Hg) | 含まれない | - |
六価クロム(Cr⁶⁺) | 含まれない | - |
PBB/PBDE | 含まれない | 難燃剤不使用 |
C3602は鉛を含むため、RoHS指令の例外規定(6(c))を適用することで使用可能になる場合があります。
除外規定は廃止が議論されて期限が決められていますが、延長を繰り返しており、いつまで使用可能かは不透明です。
環境対応が求められる場合は、鉛フリー快削材(C6801など)への変更が必要です。
C3602とC3604の違い(一覧表)
C3602とC3604はほとんど同じ用途に使えます。
強度はC3604の方が少し高いですがほぼ同じです。流通量はC3604の方が多いです。
比較項目 | C3602 | C3604 |
---|---|---|
JIS規格 | JIS H3250(棒材) | JIS H3250(棒材) |
名称 | 快削黄銅2種 | 快削黄銅1種 |
銅(Cu)含有量 | 約59.0~63.0% | 約57.0~61.0% |
鉛(Pb)含有量 | 1.8~3.7% | 同左 |
引張強さ(代表値) | 約360~490 N/mm² | 約370~520 N/mm²(C3602より高め) |
伸び(代表値) | 約10~25% | 約10~20% |
主な特徴 | 加工性・コストのバランスが良い | 強度と切削性のバランスが良い |
RoHS対応 | 含鉛のため例外規定が必要 | 同左 |
主な用途 | 一般機械部品、自動旋盤部品など | 強度が求められるバルブ、継手など |
価格 | やや安価 | C3602よりやや高価 |
機械設計者がC3602を使う際の注意点とトラブル事例
C3602は快削性に優れる材料ですが、鉛の含有や強度・環境条件に配慮が必要です。
以下に注意点と実際の事例をまとめます。
◆ 設計上の注意点
項目 | 内容 | 解説・対策 |
---|---|---|
鉛含有に関する規制 | RoHSなど環境規制に影響 | 規制対象品では鉛フリー材(C6801など)に変更 |
溶接・ろう付け不可 | 鉛含有により溶接に不適 | 接合は機械加工または別材併用を検討 |
高応力環境には不向き | 疲労強度は低め | 動的荷重がかかる用途では他材料(青銅など)を使用 |
◆ 実際のトラブル事例と対策
事例 | 発生状況 | 原因 | 対策 |
---|---|---|---|
水道金具での腐食 | 鉛溶出による問題 | 鉛含有量超過 | RoHS適合品、または鉛フリー材使用 |
接合部の破断 | ろう付け箇所が脆化 | 鉛による接合性不良 | 設計変更または材質変更 |
高精度部品の摩耗 | 摺動接触部の早期摩耗 | 表面硬度不足 | 硬質メッキや表面処理追加 |
まとめ
C3602は、高い快削性を持つ黄銅材料で、精密切削部品の量産に適しています。
工具寿命の延長や加工精度の確保に優れる一方、鉛含有による環境規制への対応や、接合性・強度には注意が必要です。
適切な用途選定と、今後は必要に応じた鉛フリー材料も検討する必要があります。