C6782はJISに規定された高強度黄銅(アルミニウム黄銅)で、銅-亜鉛-アルミニウムの三元合金です。
耐食性と強度に優れ、特に海水耐性が高いため、海洋機器や水処理設備などに用いられます。
C6782の特徴と性質
C6782は一般的に次のような特徴があります。
- 非常に高い耐食性:特に海水や湿潤環境に強い。
- 高強度・高硬度:一般的な黄銅に比べて約1.5倍の強度。
- 耐摩耗性が良好:摺動部品やバルブなどにも適する。
- 熱間鍛造性に優れる:複雑形状でも対応可能。
C6782の用途例
C6782はその高い強度と耐食性から、特に海水・高湿度環境で使用される部品に多く用いられています。
- 海水ポンプ部品、舶用機器、プロペラ軸、ポンプ軸
- 水処理設備部品、バルブ
- 配管継手、ジョイント
- 建築用装飾金物
- 圧力容器の構成部品
C6782の化学成分(JIS H3250準拠)
C6782の主な化学成分は以下の通りです。マンガンやアルミニウムにより緻密で安定した酸化被膜が形成されやすくなり、耐食性が向上します。
元素 | 含有量(%) |
---|---|
銅(Cu) | 56.0~60.5 |
亜鉛(Zn) | 残部 |
アルミニウム(Al) | 0.20~2.00 |
鉄(Fe) | 0.10~1.00 |
マンガン(Mn) | 0.50~2.50 |
鉛(Pb) | 0.5以下 |
C6782の機械的性質(熱間鍛造品)
C6782の機械的性質は下記のとおりです。
質別記号 | 製品記号 | 径または対辺距離(mm) | 引張強さ (N/mm²) | 伸び (%) |
---|---|---|---|---|
F | C6782BE-F | 6.0以上 50以下 | 460以上 | 20以上 |
50を超え | 400以上 | 20以上 | ||
F | C6782BD-F | 2.0以上 6.0未満 | 490以上 | 5以上 |
6.0以上 110以下 | 490以上 | 15以上 | ||
F | C6782BF-F | 100以上 | 460以上 | 20以上 |
上記はJIS H3250(銅及び銅合金の棒)に規定された特性です。
C6782の物理的性質(物性値)
C6782は以下のような物理特性を持ちます。類似材質の値なので参考に留めてください。
項目 | 数値 | 単位 |
---|---|---|
密度 | 約8.25 | g/cm³ |
融点 | 約910 | ℃ |
熱伝導率 | 約100 | W/(m·K) |
電気伝導率(20℃) | 約15.8 | %IACS |
線膨張係数(20~300℃) | 19.0×10⁻⁶ | /K |
ヤング率 | 約110 | GPa |
ポアソン比 | 約0.34 | – |
C6782と環境負荷物質・規制対応
◆ C6782に含まれる有害物質(JISに準拠)
元素 | 含有量上限 | 備考 |
---|---|---|
鉛(Pb) | 0.5%以下 | RoHS指令の例外規定対象 |
カドミウム(Cd) | 含まれない | 環境規制に完全適合 |
水銀(Hg) | 含まれない | - |
六価クロム(Cr⁶⁺) | 含まれない | - |
PBB/PBDE | 含まれない | 難燃剤不使用 |
C6782はRoHS指令の鉛(許容上限:0.1%以内)を超えるため、これが問題となる場合は適用除外6(c)の対象になるか確認が必要です。
機械設計者がC6782を使う際の注意点とトラブル事例
C6782は優れた性能を持ちますが、加工性や電気特性に制限があります。
◆ 設計上の注意点
項目 | 内容 | 解説・対策 |
---|---|---|
冷間加工性が低い | 高強度のため塑性加工に制約 | 主に熱間鍛造で成形、冷間加工には不向き |
電気伝導性の低さ | 電気用途には適さない | 電気部品にはC1100などの銅材を使用 |
被削性が中程度 | 鉛を含まないため快削性に劣る | 切削条件の最適化、専用工具の使用 |
◆ 実際のトラブル事例と対策
事例 | 発生状況 | 原因 | 対策 |
---|---|---|---|
鍛造品のクラック | 加工時にひび割れ | 鍛造温度不足 | 適正な鍛造温度(800~900℃)を確保 |
工具摩耗の増加 | 切削時の摩耗進行 | 高硬度による | 耐摩耗性工具、切削条件の見直し |
腐食しない設計の過信 | 局部腐食の発生 | 異種金属接触や応力集中 | 電気的絶縁や応力緩和処理 |
まとめ
C6782は、極めて高い耐食性・高強度・無鉛性を持つアルミニウム黄銅です。
特に、海洋構造物や水処理機器など過酷な腐食環境下での使用に適しています。
加工性・電気特性に制約はあるものの、耐久性重視の構造材として優れた性能を発揮します。